環境のイエ
フィジックスと住空間デザイン

おわりに


 この書籍は、私の学位論文「ハウジング・フィジックス・デザインに関する研究」(東京大学、2009年9月)を下敷きとして、その内容を発展させたものである。事例を増やし、グラフィカルに表現する形へと展開させている。
 事例を取り上げるにあたっては、実際の住宅を訪れ、住まい手や設計者への取材を行うことを原則とした。実際の環境を体験するべきと考えたためであるが、住まい手、設計者の方々にはご負担をかけることとなった。この場を借りて、お礼を申し上げたい。
 また図版の作成には、小泉アトリエの中林仁子氏を中心として、首都大学東京小泉研究室の大学院生(井辺陽子、奥村雅俊、木野田千晴、浜之上裕美)の皆さんに尽力いただいた。彼・彼女らとともに図面・写真を前に議論をし、見えないフィジックスを読み取っていくのは、建築に関わる筋力トレーニングのようで、とても充実したひとときであった。
 そもそも私が環境に意識を向けることとなったきっかけは、1995年に発表した『プラモデル住宅』であった。ローコストの住宅でいかに性能を確保するかという課題設定のなかで環境性能を考え始めたのだが、それが1998年の『ハウスジャパンプロジェクト』につながり、さらに自邸『アシタノイエ』(2005)にむすびついている。環境のことをことさら意識してきたつもりはなかったが、学位論文をきっかけにこれまでの活動をまとめてみると、自らの設計の中での「環境」の位置づけが明確に浮かび上がってきた。と同時に、昨今様々な局面で取り上げられる環境に配慮した建築の課題と可能性も見えてきた。そこで、フィジックスに意識を向け、新たなデザインの可能性を探る論を展開しようと思った次第である。フィジックスを読み取る「筋トレ」が読者に共有され、フィジックス・デザインを通じてそれぞれが建築の可能性を広げていただければ、筆者としてこの上ない幸せである。
 最後に、東京大学の難波和彦先生には、フィジックス・デザインについての論考を博士論文としてまとめることをアドバイスいただいた。また、学芸出版社の中木さんには、筆の遅い我々に最後まで辛抱強くおつきあいいただいた。本書のきっかけを作っていただいた難波氏と終わりを見届けてくれた中木氏にあらためて感謝の言葉を述べたい。

2010年9月 小泉雅生