『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2007.7
かつて経験したことのない高齢社会を迎え、高齢者福祉はこの10年余りの間に大きな転換の時期を歩んできた。そうした転換の一つが、従来行われてきた集団的処遇中心の「施設での介護」から、入所者の自主性を尊重した「暮らしの場での介護」へと変わろうとする動きである。これは今後必ず増大する認知症高齢者の介護問題ではより重い課題になるはずだ。
こうした動きのなかで、入所高齢者を小規模なグループに再編成し、こじんまりした空間に区切って介護する「ユニットケア」や、住み慣れた地域で自分らしく暮らしたいという高齢者の思いに応える「小規模多機能施設」の試みもすでに始まっている。
本書では、数多くの福祉施設の設計を手がける一方、福祉施設設計研究会を主宰するなど、京都を拠点にこの分野で活躍する著者が、従来の特養を「ユニットケア」化した二つの事例、そして「小規模多機能施設」建設の二つの事例、あわせて四つの設計実例を紹介している。それぞれの事例ごとに条件は異なるが、いかに「家」に近い暮らしを実現するか、プランやディテールに細やかな配慮と工夫がめぐらされる。
そして、著者が大切にしているのがいわゆる「しつらえ」である。「しつらえる」とはきちんと美しく整えることだが、単にハードな意味合いではなく、高齢者が「家」に暮らす安心感を得られるための幅広い配慮だろう。そうした生活空間のしつらえの知恵が一つの章にまとめられている。
本書はページをめくるごとに、丁寧で親切なイラストが配されており、大変読みやすい。これは正にこの本の良き「しつらえ」になっているといえる。
(垂水英司)
『建築知識』(エクスナレッジ) 2007.4
2000年の介護保険制度導入により、日本の福祉は大きく変化した。利用者のニーズに即したサービスが求められるなかで、利用者側から見た環境の整備は急務の課題であるといえる。
本書では、長年特養や老健施設の計画・設計に携わってきた著者が、他に先駆けて取り組んできたユニットケアや小規模多機能型居宅介護施設[*]のモデルケースを詳細に紹介する。効率的な管理のために集団処遇の行われてきた従来のあり方から、個人の尊厳を中心に据え、よりよい設備環境を模索し準備するあり方へと、劇的な進歩を遂げる介護施設。そのいきいきとしたケーススタディは、居住空間と人とのつながりの深さを気付かせてくれる。
*:ユニットケアとは、利用者を各ユニットに分け、少人数の家庭的な雰囲気のなかで介護を行うこと。小規模多機能型居宅介護施設とは、地域に密着し、利用者のニーズに応じて「通い」「訪問」「泊り」と、多様なサービスを行う施設 |
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