設計することと、教えることの二足のわらじを履いて三十数年になる。
建築の設計は「住宅に始まり、住宅に終わる」といわれるように、何十年経っても住まいを設計することは難しいものだと実感する。
学生時代から日本の古い集落を調査してきたが、どこへ行っても人々は優しく迎え入れてくれた。かつては、私達も美しく人間味あふれる住環境のなかでくらしていた。しかし、最近の周囲の住環境を見ていると、なんと愛想のない街並みになってしまったのだろうと感じる。
自分の住まいだけ、または、敷地の中しか関心がなくなってしまっているようである。それは、地域のコミュニティが希薄になってしまったことと無関係ではないように思う。
住まいに目を向ければ、やりたいことすべて叶えてしまったという、節制のないデザインの建物がなんと多いことか。
デザインは飾ることだけではない。何もしないで、そのままさり気なくしておくことも崇高なデザインであることを知ってほしいと思う。
しかし、そう嘆くことばかりではない。最近では、私たちは、ただ住めればよいというあてがいぶちの住宅から、美しく快適な住まいと環境を求めるようになってきたと思う。住まいにも「質」が求められる時代になってきたのである。大変好ましいことである。
わたしたち一人一人が、自分の住まいだけでなく、少しずつ周囲へ関心をもつようになれば、私たちも安全で美しい住環境を手に入れることができるはずである。またそうなることを真に願って、この著書をしたためたつもりである。
まとめるにあたって、さまざまな面で学芸出版社の京極迪宏社長、編集部の知念靖広さんのお力添えをいただいた。心から御礼申し上げる次第である。
2005年2月
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