世界の野外博物館

あとがき




 私が研究対象にしている伝統民家(民俗建築)は急速に姿を消している。このようなことから、1970年代に入ってから民家などの伝統文化を保存・公開している野外博物館に関心を集中しはじめた。

 野外博物館はヨーロッパをはじめ世界各地にもあるが、とくに北ヨーロッパは野外博物館発祥の地といわれているので、1971年、78年、84年にヨーロッパ各地の野外博物館をめぐった。1998年には、関西学院大学の短期留学制度によって、未調査だったポーランドや、ドイツ(とくに旧東ドイツ)、オーストリア、スウェーデン、デンマーク(再訪も含む)の施設を巡検することができた。

 1971年から総計すると70の野外博物館を調査したことになる。

 1986年、88年、91年には、文部省の科学研究費補助金、1987年にはサントリー文化財団の援助金を得て、守屋毅(文化史)、土屋敦夫(建築学)氏らと組んで、北アメリカ(アメリカ合衆国とカナダ)の伝統的建築物の保存・再生・活用に関する調査研究を行った。なお1986年から91年まで総計すると4・3万キロメートルを走破し、調査した野外博物館、歴史公園、古い町並みは312に達した。

 また南太平洋(オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、サモアなど)や東アジア(韓国・中国・台湾)、東南アジア(インドネシア・タイ・マレーシア・フィリピン)の調査時に訪ねた野外博物館もかなりの数になった。

 本書は、筆者のライフワークである民家研究の一環としての世界の野外博物館の総まとめといってよい。

 まず第1〜3章で野外博物館の定義、野外博物館の歴史、野外博物館の分類など基本的な問題について解説した。

 中核をなすのが第4章世界の野外博物館であり、相当の頁数を割いている。欧米の事例が多いが、アジア、太平洋地域の野外博物館をも含んでいる。世界の主要な野外博物館について、タイプ別に代表的なものをとりあげ、その特色をまとめている。

 第5章では一つのまとめとして、地球環境時代の野外博物館のありかたを、日本の事例を加えながら比較を試み、現在直面している諸問題を探ったのである。

 民家をはじめとする種々の伝統文化が失われつつある現在では、野外博物館めぐりが「21世紀の世界民家の旅」といえるようになるであろう。また本書でとりあげた野外博物館の種々のタイプや種々の試みが、これからの生涯学習のヒントになり、また地域おこし、町おこしなどに少しでも示唆するところがあれば幸いである。

 本書は私個人のフィールドワークが軸になっているが、地理学・民族学関係の学会や民俗建築学会の皆さんから多くの御教示をいただいている。北米調査については、守屋毅・土屋敦夫両氏の御協力があってこそ実現できたものであり、長期のフィールドワークを通じて多くの新しい刺激と発想を得ることができた。

 日本はもとより欧米をはじめ世界各地の野外博物館では、館長や職員の皆様にも随分お世話になっている。とくにポーランドのサノク野外博物館元館長J・チャイコフスキー先生は、20余年にわたって資料や数々の情報を提供してくださった。とりわけ1998年の現地での懇切な指導は忘れられない。

 野外博物館学の新井重三氏、ボン大学のJ・クライナー先生、京都女子大学の中村泰三氏、東洋大学の太田邦夫氏、名古屋大学の小谷凱宣氏、大阪学院大学の瀬川真平氏、甲子園大学の和田正平氏、国立民族学博物館の塚田誠之氏、佐藤浩司氏、大阪府立大学の福田珠己氏、国立民族学博物館研究部や関西学院大学文学部地理学教室、リトルワールド野外民族博物館、日本民家集落博物館の諸氏からも種々御教示を得ている。

 また本書をまとめるに当たって、実に多くの諸先学の文献を参照させていただいた。これらは参考文献欄に列挙してある。

 あわせてお世話になった方々に心から御礼申し上げる次第である。

 本書の出版については、その契機を作ってくださり、種々御協力、激励をいただいた学芸出版社社長の京極迪宏氏、編集担当の藤谷充代さん、越智和子さんに感謝申し上げたい。

杉本尚次 

学芸出版社
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