文京区の文化財の残存状況

蓑田ひろ子



調査結果と分析

図3 近代建築の残存状況
 今、鈴木さんの方から文京区内で残っている近代建築が107件、『近代建築総覧』に掲載されていたのに、なくなってしまったのが116件とのお話しがございました。パーセンテージにしますと残っているのが48%、消失率が52%です(図3)。


地区別残存・消失状況
図4 地区別残存状況
 それを地区別に調べたのが図4「地区別残存状況」です。一番残っているのが東京大学で全体の32%を占めています。そこで東京大学を除いて残存状況を見ますと、残存率41%、消失率約59%と、無くなってしまったのが6割にまで達していました(図5)。

図5 東京大学を除く残存状況
 ではどの町が一番無くなっているかですが、本駒込の85%が最高です。ついで、千駄木で78%、西片では74%が失われていました。


用途別残存・消失状況
図6 用途別残存状況
 次に建物の用途別に見てみたのが図6「用途別残存状況」です。やはり一番良く残っているのは学校建築など文教系です。残存している建築物の実に47%を占めています。これは、東京大学で残っている建物が多いことが大きく影響しているといえます。
 逆に無くなってしまった率が最も高かったのは業務系、事務所ビルです。業務系では75%が失われていました。また店舗類も71%で、業務・商業ともに7割以上が失われていました。

構造別残存・消失状況
図7 構造別残存状況
 次に、どういった構造の建物が残っているのか、あるいは消えてしまったのかを見てみますと、図7「構造別残存状況」にあるように多く残っているのは鉄筋コンクリート造(RC造)です。これが全体の55%を占めています。逆に消失率の方を見ますと木造が58%です。

まとめ
 『近代建築総覧』で調査された時から約20年間たっています。その間に相当数の近代建築が消失してしまっていることがわかりました。その結果、街並みも随分かわってしまったのではないかと思います。


残存する近代建築の所有者の意識について

 次に残っている建物を所有していたり、そこに住んでおられる方にアンケートで意識調査をさせていただきました。

総覧のリストアップへの認識について
 調査対象の建物は『近代建築総覧』に掲載されたものですが、そのことを知っているかどうかをお聞きしました。「知っている」と答えた方は約19%でした。ほとんどの方は、近代建築として評価されている、そういった建物としてリストアップされているという認識はお持ちではないということです。

建て替えの予定の有無について
 次に建て替え予定についても聞いてみました。建て替えを予定していると答えた方が約30%です。一方、自分は保存していくんだとお答えになった方は37%です。

所有する近代建築の価値について
 自分の住んでいる近代建築が価値があると思うかと聞きました。あると答えた方は33%です。価値は無いとおもっていらっしゃる方は約31%です。ほぼ同数ですが、価値があると思っておられる方が若干多いということがわかりました。
 また、自分の建物の価値を知りたいと思うかと聞いてみました。4割強の方が自分の建物が本当に価値があるかどうかを知りたいと答えられました。別に価値を知りたいとは思わないという方は3割強程度ですから、建物に興味を持っていらっしゃる方が若干多いと言えるのではないかと思います。

まとめ
 このように、残存する近代建築の所有者のほとんどがリストアップされていることすら知らないということ、しかし価値があると思っていらしゃる方も多いし、そう思っていらっしゃる方の5割以上が保存したいという意向をお持ちであることが分かりました。
 保存してゆくには色々な課題があり、税制上の優遇措置とか補助金なども必要かと思いますが、ともかく保存したいという所有者の意志があることは出発点になりうるのではないかと思います。
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