金出さんからお願いします。
「アメリカでの具体的な保存方策はどうなっているのか。
例えばデザインガイドライン等があるのか。
法規制はどの程度厳しいのか」と、 加藤さんからの質問です。
〈金出〉 非常に難しい問題です。
デザインガイドラインでは、 町並み保存に関してメインストリートプログラムというものを聞かれた方もいるかと思うんですけど、 それは商店街の再生計画を中心とした保存計画です。
この場合は、 例えば1つの通りとかそこと交差する通り、 その商業地区の活性化ということで町並み保存をすることがあって、 そのためのデザインガイドラインの本が出ているわけです。
それは例えば、 昔の商店の特徴であるウィンドウの形式であったり、 ウィンドウの上の(建物の内部にまだ照明というものが充分に発達してなかった頃に)光りを入れる窓の形とか外に突き出す看板の形とか歩道の色彩、 街灯などがあるわけですけど、 ガイドラインをつくってしまうと実は皆がそれに従って、 同じものが並んでしまうという不都合が出てきたわけですね。
だからデザインガイドラインはあることはあります。
また、 カリフォルニアで震災後まちをまた新たに興す所、 例えばパサディナとか、 フィルモアとかではガイドラインを作っています。
詳細については三船さんの方からどうぞ。
〈三船〉 例えばパサディナではオールドパサディナという 100年前の通りを再現した通りがあります。
そこへ行ってパサディナのレポートを見ると、 その中に、 どうやって再現するとか、 色々と書いてあります。
ただしあまり厳しいことは書いていません。
例えば日本の場合、 高山などでも看板等に対して具体的に数字を出して規制している場合もあるのですが、 パサディナではそうではなく、 パーミッションセンターというデザインを許可する部局があって、 そこで担当者の判断で許可している部分があります。
あまりきっちり数字などを決めないで、 一人の人に任せてその人の判断で、 これは許可するとか許可しないとかそういうやり取りをしているようです。
ある程度は決めているんだけれども最後は担当者が決めているようです。
〈金出〉 そうですね、 それは町並みという大きな面的なものに対してであって、 指定された文化財に対しては市の審議会を通らないと建築局からの許可がおりないという規制をとっている都市もあります。
その場合には、 委員会でこれは良いと多数決で決まるまで、 審議を通らないという形を採っていますね。
〈三船〉 でもカリフォルニア州のデザインコードというのは結構細かいですよね。
イラストによってモデルが提示されていたりして、 そういうちょっと細かい部分がありますね。
もう1つ「アメリカにおける補助金はあるのか」、 というご質問です。
それよりも非営利事業団体等(NPO)が独自に資金を集めていて、 その対象となる範囲・対象物に対しては申請書を募集して補助金を出すという形を、 かなり多くのところで採用しているようです。
そういうNPOの活動は、 市民間の保存活動の中で非常に多くの役割を担っています。
話がそれますが、 キャストアイアンという鋳鉄のファサードをもつ建物を対象とした団体やアールデコの建物の団体とか、 マンハッタンだったらある地区を対象とした団体やある建物の様式を守る団体など、 色々とあるわけです。
その中で範囲を限って補助金を出すということはよく見られる例だと思います。
ネットワークを今後どのようにつくっていくのか、 あるいは既につくられているのか」というご質問ですけれども、 現在保存再生の情報は雑誌等で出ておるのがございます。
一番多く出ているのはナショナルトラストの月刊の『報』でございます。
保存と活用のニュースは毎号出ております。
建築の雑誌の『造景』にもかなりそういう地域的な保存とかまちづくりが出ております。
それからあとは建築学会の民家小委員会で毎年民家町並みのニュースというのが出ておりまして、 これにも保存関係のニュースはかなり出ております。
ただそれらに漏れたものもありまして、 特に活用などは地方新聞のニュースですね、 それから中央の新聞が地方新聞のニュースをまた一週間に一回程度特集しているのがあります。
しかしそれ以上の全部を網羅するようなものは今出ておりません。
それから「ネットワークを今後どのようにつくっていくの」かという事ですけれども、 現在そういう動きが色々あるという状態であろうということであります。
例えば県単位のネットワークを新潟県ではつくろうとしておりますし、 長野県でもそういう関心のある方の建築事務所・建設会社・行政・所有者など様々な方が集まった団体ができています。
それから茅葺きの技術の伝承その他についてもネットワークをつくろうということで、 既に宣言が出されております。
これからインターネットを通じてまさにそういうものを出していこうというところが現在の状態ではないかと思います。
通り等から見える外観は1/4以内ならば改造は可能であると。
ショーウィンドウを設けるとかそこを喫茶室にする等、 改造は出来るようになっております。
それから内部の改造は全く自由です。
文化財の場合には内部の改造も全部規制の対象になって、 出来るだけ元の形を残すというのが文化財の立場でございますから、 便所とか風呂場とか台所とかどうしても必要な再生工事以外は普通は自由な変更は認められておりません。
ですから登録制度というのはそもそも活用の可能性をかなり含み、 また認めた保存制度だといってもいいと思います。
'96年の10月から実際の登録が始まりまして、 一年におよそ 500位を目途に登録を進めている状態です。
毎月登録の審査を文化庁でやっておりますけれども、 まもなく登録文化財の再生工事が始まっていくのではないかと思っております。
私も再生することによって歴史的な建物はその良さを維持し、 保ちながら将来に向かって保存していけるというようなことを望んでおります。
再生というのは単に建物を新しくするという事ではなく、 その良い点を、 価値のある点を保ちながら、 現在、 今後の生活に適用させるというのが、 再生という言葉の概念の内容だと私は思います。
今度の本の金出さんが書かれた章の最初にも、 アメリカの連邦政府の内務省の定義があります。
リハビリテーションというのが日本の再生に相当するアメリカの英語ですけれども、 それによると「ある資産を修理または改造により、 その歴史的建築的文化的価値に寄与する部分や特徴を保ちながら、 今日求められる使用方法に対応する行為または過程をリハビリテーションという」と定義しております。
私は日本でもほとんどこのまま使って良いと思います。
まあそういう意味で登録制度をこれからどんどん再生活用に向けて利用して行くべきだというふうに思っております。
これは数が多いですから、 いわゆる現在の文化財保存の専門家ではカバーできない部分でございまして、 是非建築家の皆さん方の参加をお願いしたいと思います。
これは私が現在考えている課題でございまして、 その的確なご返事はなかなか自信がないんですけど、 やはり単なる「もの」として残すだけではいけないと考えております。
実際に日本語の「もの」というのは、 狭い意味の「もの」だけ含んだものだけではなく、 「ものの哀れ」とか「ものの分かる人」という言葉にもあるように、 それは「もの」と人間の心との繋がりも含んだ言葉ですけども、 ここでは少し狭い意味で単なる物体としての「もの」というふうに考えますと、 やはり私は、 その建物を伝えてきたご家族とか、 あるいはその地域のコミュニティとかそういう人たちが以前からずっと持ってきた価値観とか、 それを保っていた生活の仕組み、 それが歌舞伎舞台の場合ならば芸能ですが、 そういう事を汲み取って行くのが出発点ではないかと思います。
もう1つは、 建築家や都市計画とか行政とか専門家の立場で仕事する場合も、 現在の時点だけでものを考えないということ、 どちらかというと「これを残した」とか「これは再生した」とかいう事だけに終わってはいけないんではないかと。
例えば従来の保存・再生に係わったいろんな方がいらっしゃいますけれども、 その中には再生が終わってそれが建築の雑誌に載るとそれでおさらばっていう人がいます。
あとは関心がないというようないわゆる従来の建築家の作品に対する態度と同じように考える人もいます。
あるいは保存運動やって保存が成功した、 あるいは失敗したという時点でおさらばする人がいますが、 これもいけないんではないかというように考えます。
私は現在、 若い方の仕事を見ていて、 やはり時代が変わってきたと感心します。
というのは若い人たちはそれで終わったとは考えていないことですね。
例えば壊される建物も実測調査をするだけではなく、 材料のことをよく注意して最期を見届けたり、 活かされる場合には家の方に深くお話を聞いてその歴史を調べ、 その家族の方の考え方を聞きながら進められていると。
私が今考えているのはそういう一番基本的なことだけです。
〈三船〉 どうも有り難うございました。
時間が押し迫ってきて質問に答えるだけで終わってしまったのですけれども、 最後に文京の歴史研究会について簡単に紹介してくださいという村川さんからの質問ですが、 作ったばかりではっきりしたことは決まっていないのですが、 とりあえず今回の講演会を開催してみました。
事務局はエコプランという会社で東大赤門の並びで近江屋さんという洋菓子屋さんの3階にあります。
あと2~3回、 何回かこういう企画をしていきますので、 そのうちに何か会について話せるようなことが出来てくるのではないかと考えております。
あと「文京区の取り組みをどのように見ていらっしゃいますか」という事ですが、 歴史的な建築物でいえば、 例えばアメリカでは30年前の建物と金出さんが先程言っていましたが、 日本でいえば戦前、 50年前の建物について調査する機運になってきていますので、 そこで、 文京区でも戦前の建物を悉皆調査するというように、 そのようなところから手がけたらいいかと思っております。
次回は今回の本と前回の本の著者である文化庁の苅谷さんに文化財登録制度について話していただきたく思います。
また、 ほかに若手をつけて、 11月頃に予定しております。
今日はこれで終わりたいと思います。
どうも有り難うございました。
写真1~8は金出ミチル氏、 写真9、10、15、17~18は大河直躬氏、 写真11~14、16は蓑田ひろ子氏撮影によるものです。
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