まちづくりのための交通戦略
書評
『地域開発』2001.1
交通渋滞、交通事故、騒音・大気汚染などの公害、中心市街地問題など、交通は我々の身近で様々な問題を引き起こしている。これらの問題に対して個別に対症療法的に対策を進めても根本的な解決にはならない。なぜなら現在の交通現象は社会システムの中に組み込まれているからだ。本書では、それに対処するためにまちや生活そのものをトータルで変えていく、統合的なパッケージとしてのまちづくり交通戦略の重要性を強調している。
第一章では現在の交通問題について概観した後、パッケージ・アプローチの考え方を示し、第二章では、都市サイド、行動、自動車、高齢者・障害者など8つの対象に分けて個々の手法を解説している。メインである第三章では、各国の先進的なパッケージ・プランの事例を紹介し、日本における試みにも触れている。最後に、財源の問題やモデル分析の方法、戦略の作り方など、実際にまちづくり交通戦略を実現するための教示が盛り込まれている。
都市問題 2000.12
交通は、都市の活動を維持するために必要である。しかし、交通それ自体は人びとに利益をもたらさない。そればかりか、交通の道具として発明された自動車の大衆化は、事故、公害、交通混雑、都心の衰退さらには地球環境問題などを引き起こしている。これらの交通問題は大きな社会的損失をもたらしているが、いざその改善となると問題は恐ろしく複雑でその解決には多くの困難が伴う。
本書は、複雑な交通問題を解くにはまちづくりと連携した戦略が必要であり、この交通戦略の目的を達成するためには多数の手法を組み合わせて実施する「パッケージアプローチ」が重要であるとし、海外で集めた新しい交通戦略の考え方と事例を豊富に紹介する。
第1章「都市交通戦略の視点とパッケージ・アプローチの考え方」では、都市交通戦略の目的は交通の問題を解決することだけではなく、交通が持続可能な社会の「発展」すなわち人びとの生活レベルの向上をもたらすことだとする。そして、そのためには、市民参画のプロセスを通じてパッケージ・アプローチを実行・監視・修正する必要があるとする。
第2章「都市交通戦略を構成する手法」では、都市交通戦略の目的を実現するための個々の手法を、主にその対象から@都市サイドへのアプローチ、A行動へのアプローチ、B自動車交通へのアプローチ、C公共交通へのアプローチ、D歩行者・自転車へのアプローチ、E交通空間へのアプローチ、F高齢者・障害者などの交通困難者へのアプローチ、G新しい技術によるアプローチの8つに分類して解説する。
第3章「事例にみる都市交通戦略とパッケージ・アプローチ」では、主として海外の都市の事例を豊富に紹介する。@フランスのストラスブール、Aイギリスのタイン・アンド・ウェア都市県、Bイギリスのウエスト・ミッドランド都市県とバーミンガム、Cノルウェーのベルゲン、オスロおよびトロンハイム、Dシンガポール、Eオランダのグローニンゲン、Fドイツのフライブルグ、Gオランダのハウテン、HイギリスのホーシャムIドイツのベルリン・モアビット地区とブクステフーデ、Jデンマーク、ドイツ、イギリス、オランダの諸都市、Kイギリスのバークハムステッド、シッティングボア、イーストハムおよびボーハムウッド、そして最後にL日本の金沢市、奈良市および大津市である。
第4章「まちづくり交通戦略の実現に向けて」では、前章までで書ききれなかった課題として、財源と費用負担の問題、および行政のしくみづくりと計画のプロセスづくりの重要性について述べている。
実際の都市交通の改善に市民・行政とともに取り組んでいる研究者によって著された本書は、同様の問題に悩んでいる人びとにとって貴重かつ有益な一冊となるだろう。
造景 No.28
本書の副題に言うパッケージアプローチとは、複数の施策の組合せを指している。マイカーを減少させるムチの施策と、公共交通に誘導するためのアメの施策を「パッケージ」にして実施することにより、都心の交通量をコントロールするものらしい。この施策の組合せには、著者によれば五つのタイプがあるという。右に記したようなアメとムチの交通規則は、モーダルパッケージといい、その他に補強型パッケージ、財政パッケージ、合意形成パッケージ、空間パッケージのタイプがある。
その詳細は直接読んでいただきたい。その他、本書には都市交通戦略を構成する手法と日欧の先進例が紹介されている。
学芸出版社
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