人と街を大切にする

ドイツのまちづくり


まえがき

 ドイツに住むようになってすでに35年余、日本にいたよりも長くなった。別に永住するつもりとか日本が嫌いというのではなく、仕事の都合というか、大学を終えて一度日本に帰ったが、都市計画で仕事をしていくのは、まだ時期がいくらか早すぎ、そんなことでまたドイツに戻った。
 あの当時、1960年代の中頃、ドイツで最初の都市計画専門の設計事務所がベルリンに出来た。「フライエ・プラーヌングス・ビューロー・ベルリン、略称FPB」である。ベルリン工科大学のエゲリング教授の助手3人が始めたもので、私もはじめは学生アルバイトでそして卒業後もしばらく、この事務所にお世話になった。
 その後、ドイツの大学で研究職につき日独の都市計画の比較をしたり、日本の都市の形態分析などの研究をしていた。こういった研究作業は日本の行政等の立ち入った話が入り、それをドイツ語で発表するのは、なんだか自分がスパイ行為をしているような気持ちがしたものである。
 そして日独両国の都市計画を知る自分の置かれた特殊な環境を考えるようになり、自分の知識を、ドイツにではなく、日本に還元したいと思うようになった。
 この本が出来た由来は、青梅市のホットマン株式会社の社長田中健二郎氏との知遇がきっかけである。会社の発展を地域の発展と結びつけたいという熱意から、コンサルタントの依頼があり、実務的なアドバイスに加えて、ドイツのまちづくり情報を送るようになった。まちづくり熱血漢の田中社長のご協力とご理解に深く感謝する。もう一つのきっかけは、学芸出版社編集の前田裕資氏である。インターネットで出している同社のホームページに毎月連載の依頼を受け、「ホットマン情報」にいくらか手を入れ「ドイツのユニークなまちづくり」として流すことになった。この本はそれを詳しく書き直したものである。
 この本を読んでもらいたいのは、公共や民間の都市計画専門家もさることながら、なるべく広い層の人達で、そのため専門用語を避け、出来るだけ読みやすくわかりやすい文章に心がけた。
 「都市計画」が「まちづくり」と言われるようになり、専門家の手をはなれて一般市民の関心事となるようになった。おしゃれな人は室内インテリアと同じ目で、都市デザインを見るようになり、自然生態(エコロジー)を考える人は居住環境を考えるようになった。そうしていろんな角度からまちづくりが議論されれば、町は必ず良くなっていく。
 ドイツの都市計画は市町村が主役である。そのためのまちづくりの法律も違えば(条例であるが)、方法も所によってかなり異なる。ここで集めた事例をそのままわが国に導入できるものではないであろうが、読者がこの本を読んで勇気がでたり、考えるうえでのヒントになったりすれば本望である。
 この本を作るにあたって、多くの人のお世話になった、この場をかりて厚くお礼を申し上げたい。特に学芸出版の前田裕資氏には文章の校正をいただき、全体を読みやすくしていただいた。出版をお引き受けいただいた学芸出版社、編集実務を担当していただいた三原紀代美さんにも末筆ではあるが厚くお礼申し上げたい。
   1999年9月
フランクフルトにて 春日井道彦


学芸出版社
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