そこが知りたい!人体デッサン
形・質感・色を描くためのコツと手順

発刊に寄せて

 世の中にデッサンの教本はたくさんあります。毎年新しい本が出され、いまの時代の要請に沿って「人を描く」ということに焦点を当てたものも少なくありません。
 単に人を描くための教本は世の中にあるものの、ヌードという人体の描き方に焦点を当て、教えることのプロであるインストラクターが、その技術のエッセンスを惜しげもなく披露する、そういった三つの要素を網羅した教本は実はほとんどありません。
 ヌードデッサンはモチーフが裸体ですから、教えてもらえる機会や、描く機会そのものがそもそも多くはないものかもしれません。他方、人類は紀元前から人体をモチーフとして芸術作品を産んでおり、今の時代までそれは連綿と引き継がれているのです。そして今後も引き継がれてゆくことでしょう。そういう人体をアートの題材とするアカデミズムを後世に伝える役割はそれぞれの時代で誰かが担ってきたのですが、現代の日本においてアトリエROJUE が果たした役割は小さくありません。アトリエROJUE はインストラクター・渡邊一雅が率いる人体デッサンを専門とする京都のスクールで、丸味や起伏のある人体を紙という2 次元媒体の上に3D表現する技法を一貫して教習してきたスクールですが、その歴史の中でファンアートのみならずデジタル時代が要請するゲームやイラスト、キャラクター造形といった分野に巣立つ生徒を数多く輩出することで、アカデミズムと現代をつなぐ役割を果たしてきました。
 東京都がクールジャパンを世界に発信すべく編纂した『アニメの教科書』にも紹介された渡邊一雅の人体描画技法は、アトリエROJUE における教練のエッセンスでもありますが、そのエッセンスがデッサン教本となって著されることになりました。いままでは渡邊一雅の口伝であった人体デッサンのノウハウがここに記されています。世の中の教本にはひと通りのことは書いてはありますが、一歩進んだその向こう側が知りたいと思っていた読者にはまさに“ そこが知りたかった” という内容が散りばめられた教本になっています。また、教えるプロであるインストラクターが著した本ですから、難解なこともありません。
 この本は、世の中の様々な本を参照しながら独学を続ける人たちへの強力な福音となるのです。

美術解剖学会所属
アトリエROJUE総合プロデューサー
海斗


はじめに

 現在ではインターネット等の発展に伴い、デッサンに関しても様々な情報を得ることができます。書籍でも人体デッサンに関する技術指導解説書は、世界中でそして日本でも数多く出ています。それほどまでにデッサンは重要ともいえます。
 本書の執筆にあたり、できるだけ他の類型的なデッサン技術指導解説書とは、少し違った角度から解説しています。
 デッサンを学ぶ人には、初心者からかなりの経験者までおられますが、いずれにしても既に人体デッサンを始めている方々を本書は対象にしています。
 したがって、単なる初歩的な技術指導解説に止まらず、より深くより強くデッサン表現の向上を提供できるものと思います。
 私は長年にわたり、デッサンインストラクターとして従事してきました。
 私は自身で経営する京都のデッサンアトリエで様々なジャンルを志す多くの若者を指導してきましたが、それと並行して東京、名古屋、大阪、九州などで公開デッサン指導会を定期的に行い、また美術大学や専門学校での指導も行ってきました。様々な立場や世代の方々との交流を通し、「何が足りないのか」「何を知るべきか」を考え続けてきました。
 デッサンを学ぶ方の声に直に接してきた経験をふまえ、美大でも書籍でも、ネットでも、画塾に類する指導所でも得ることが難しい、「そこが知りたい」ポイントをお伝えすることを本書のコンセプトにしています。
 デッサンは自主練習です。本書は、いかにして自主練習をしていくのかを解説する、自主練習の指南本ともいえます。
 この本でデッサンの基礎を理解し、本書の意識をもって誠実に実践的訓練を積むと、2 倍も3 倍も早く、確実な成長を遂げられることでしょう。美術の世界を志す全ての人にとって、自らを築く後押しになれば幸いです。

京都ライフドローイングスクール アトリエ路樹絵
渡邊一雅