〈建築学テキスト〉建築設計学T


まえがき

 この書は、住宅設計を志した人々に、少しでも自分の構想を前に進める後押しができればと願って編集されたものである。同時に図面作成において必要とされる内容を網羅しつつ、一般図と詳細図の相互関係や、スケール感について把握しやすい解説となることを目指している。
 その設計の進め方の事例として、ここではそのスタディにおけるスパイラルアップのプロセスを紹介する。これはある住宅を模索する参考事例として、設計の順序や方法の実録に沿ってまとめているが、その手順に決まりはない。

 初めて設計をしようとして、スケッチブックを広げても、何を描くべきなのか途方にくれるに違いない。
 それは大きな砂漠の真ん中に置き去りにされ、どちらに歩を進めていったらよいか分からなくなってしまうことに似ている。しかし周りを良く見渡してみると、そこにはわずかな起伏があったり、太陽の方角が見えたりするに違いない。動き出す地点に仮の目印の棒を立ててみれば、そこを基点として自分がどちらの方角にどれだけ動いたかを知ることができる。この目印を何にするかは自由である。
 まずは手を動かしてみよう。

 設計は、構想とそれを実体化させる作業の間で、さまざまな試行錯誤を積み上げていく。そこに自分なりの方法論を確立していくことこそが設計であると考えるべきであろう。
 はじめは図面に立ち向かうことは怖いものである。
 しかしそのプロセスの事例を理解してしまうと、前に進みやすくなる。設計は思索と発見の連続であり、自分が未知の世界を探ることによって、新しい様相が必ず立ち現れてくる。
 それは常に自分の道筋を切り拓いていくことであり、そのための最小限の道具として各種図面の役割と実例を中心に、その要点をまとめつつ解説している。

2009年3月
執筆者を代表して 本多友常