プレイスメイキング
アクティビティ・ファーストの都市デザイン


はじめに―なぜ今、プレイスメイキングなのか


 都市の中で起きる人々の多様な活動は、その都市の生活の豊かさを表す最もわかりやすい指標の一つである。小さな飲食店が軒を連ねる界隈では、大人たちが道端でアフター5の一杯を楽しむ。ストリートミュージシャンが音楽を奏でる街路を、学校帰りの子どもたちが戯れながら通りすぎる。駅前広場のコーヒースタンドでは買物途中の主婦が知人と立ち話に興じている。こんな何気ない日常のシーンが見られる都市では、きっと誰もが幸福度の高い生活を送れるだろう。

 現代都市における公共空間研究の第一人者であるヤン・ゲールは著著『建物のあいだのアクティビティ』で「屋外活動の三つの型」を提示している。義務的な意味あいを持つ通勤通学等の「必要活動」のみならず、散歩やレクリエーションといった「任意活動」、挨拶や会話、偶然の出会いといった他者の存在によって初めて成り立つ「社会活動」をいかに促進できるかが、活動の多様性を生みだす一つの基準となる。

 プレイスメイキングの世界的な先駆けであるニューヨークのNPO、Project for Public Spacesはその著書『オープンスペースを魅力的にする』の中で、「街やコミュニティに活き活きとした公共的な空間がある場合には居住者は強いコミュニティ意識を持つことになる。また、反対にそういった場がないときには人々はお互いに結びつきが希薄だと感じることになる」と指摘している。

 ヤン・ゲールも、「街を動きまわり滞留する人が増えると、一般に街の安全性が高まる。人々が歩きたくなる街は、適度なまとまりのある構造を持っている。つまり、歩行距離が短く、魅力的な公共的空間があり、変化に富んだ都市機能を備えている。これらの要素は、都市空間のアクティビティと安心感を高める。そこでは街路に多くの目が注がれ、まわりの住宅や建物にいる人々が街で起こっている出来事に積極的に参加する」(『人間の街』)と、都市における公共空間の重要性を示唆している。

 そして、大阪大学名誉教授の鳴海邦碩は、その著書『都市の自由空間』の中で「『自由空間』は、単に交通のみの場ではなく、そこは自然と出会い、人と出会い、さまざまな仕事や情報と出会う場であり、それが都市らしさを支えている。別の言い方をすれば、『自由空間』こそが、都市の魅力を表現しているのであり、また、都市の魅力を感じることができるのは、『自由空間』を通じてなのである」と述べている。

 こうした多様な活動の受け皿となる街なかの公共空間を、本書では「人々の居場所=プレイス」と呼ぶこととする。地域の人々の手によって獲得された「プレイス」は、都市において利用者がその場所の使い方や意味を自由に解釈できる「余白」的な機能を果たし、都市の多様性を受け入れながらも地域の個性を顕在化させる場となる。そのため、都市の規模の大小にかかわらず、単なる空間としての「SPACE/スペース」ではなく、人々の居場所である「PLACE/プレイス」と呼べる場所をいかにつくっていくかが、これからの都市において重要な課題となる。



「スペース」から「プレイス」へ


 プレイスメイキングの取り組みは、「地域の人々が、地域の資源を用いて、地域のために活動するプロセス・デザイン」であり、「プレイス」を生みだすための協働のプロセスに携わることによって、運営者や利用者となる人々に場所への愛着が芽生え、豊かな公共空間というのは「与えられるもの」ではなく「自ら獲得し育むもの」だという意識の転換が起きる。それは、人口減少や行政の財政悪化といった日本の都市を取り巻く厳しい状況において、地域の社会関係資本を活用し、強化することにもつながる持続可能なアプローチでもある。

 たとえば公園や広場、街路といった場所は、最も多様な人や活動が集まる場所であり、こうした場所がきちんと整備され、日常的に利用されていれば、そこは皆に憩いや刺激、出会いを与えてくれるプレイスとなる。それが住宅地にあれば、そこで遊んだ子どもたちの原風景となる。それが商業地にあれば、人々が街に出かけるきっかけとなり、滞在時間が増えることで消費機会を誘発し、経済効果を期待することもできる。

 こうした、多様な属性の人々やアクティビティを許容する「プレイス」を生みだし、都市に豊かな暮らしの風景をつくるための方法論がプレイスメイキングである。

 近年加速する道路や公園の規制緩和によって、各地で公共空間の活用が活発に行われているが、なかには一時的なイベント利用にとどまっているものも散見される。本書で紹介するプレイスメイキングの方法論が公共空間の整備・活用の一助となり、単なる空間活用のイベントではなく、本質的な都市生活の豊かさの向上につながる取り組みが増えれば幸いである。