フランスではなぜ子育て世代が地方に移住するのか
小さな自治体に学ぶ生き残り戦略

はじめに

 フランスの大都市を描いた『ストラスブールのまちづくり』、人口10万人以上の地方都市の動きを紹介した『フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか』に続いて、フランスの村落部についての3冊目の拙著をご購読くださる読者に心から御礼を申し上げる。
 フランスでも1980年代には出生率が下がり、地方の人口10万人未満の小規模自治体では中心市街地が空洞化した。しかし出生率はその後回復し、元気な町や村も多い。また普通の若者世帯が子どもを連れて地方に移り住み、農村地帯の人口も増えている。
 衰退から再生へ向かっている地方の小規模自治体はどのような取り組みをしてきたのか?に答えるのが本書の試みだ。筆者は「モビリティ」の観点から、フランスの住みやすいまちのあり方を分析し、交通、商業や住宅供給政策を包括した都市計画が必要だと述べてきた。「計画なくして開発なし」の原則は、若者が移住する小さな村落にも適用されている。そして自治体運営のすべての基本政策を支える法律には「連帯・助け合い(富の再分配)」と「環境保存」という基本理念が読み取れる。
 本書は「町」や「村」の活性化が基本テーマだが、コミュニティを支える「人」に重点を置いている。過疎対策の中心を占める少子高齢化社会に対応する政策は、住民がその土地でどのように生活できるかに関わる。
 多民族からなる多文化国家のフランスは緊張社会だが、個々の生き方の選択と多様性を出来る限りの範囲で認める社会の寛容性がある。国民は重税を収め、社会格差の解消に努め、飽くことなく「生活の質の向上」を求めながら挑戦を恐れない。税制や選挙、地方政治の在り方など、多面的に「地方の賑わい」を考えてみたい。また村活性化の背景のグローバルなご理解につながるように、フランスの子育て、教育、高齢者への対応などについての全体像もご紹介した。社会構造も基本政策も全く異なるが、日本の参考になるフランスの事例があれば嬉しく思う。
 それでは、フランスのルーラルにようこそ!