都市計画学
変化に対応するプランニング



まえがき

 本書の著者7人のうち6人(中島・村山・見・樋野・廣井・瀬田)は、1970年代に生まれ、1990年代から2000年代前半に東京大学工学部都市工学科/大学院工学系研究科都市工学専攻(以下、「都市工」)の都市計画コースに学生として在籍し、その後、他の大学や研究機関を経て、2010年代になって都市工で教鞭を取るようになった中堅の教員である。寺田は、もう少し若く経歴も異なるが、他の著者が学生の頃には都市工になかったランドスケープ系の専門家で、本書の準備を始めた頃、都市工に特任講師として在籍していた。
 都市計画の新しい教科書をつくってほしいというリクエストは、これまでも多方面から頂いており、既に体系的に整理された都市計画の教科書が多く存在する中、何か特徴的な教科書をつくらなければという気持ちはあったが、都市工に着任して担当することになった自分たちの講義や演習を準備・実施するので精一杯だった。なぜ自分たちの授業だけで大変かと言うと、都市工は、建築系学科や土木系学科の都市計画とは異なり、都市計画コースだけでも、研究室・研究グループ毎の系列を持った講義が多数あり、一つひとつの講義の内容が狭く深いからである。また、敷地・地区・都市・広域の各スケールの空間計画・デザインを扱う演習は、学生との対話が重要なので、多くの時間を要する。
 それよりも大きな問題は、自分たちは基本的に成長時代の都市計画を習ったにもかかわらず、自分たちが教鞭をとる頃までには社会経済状況が大きく変わっており、試行錯誤中の低成長時代・成熟時代の都市計画をも学生に教えなければならないことである。そして、大げさに言えば、「都市計画学」を成長時代・低成長時代・成熟時代という変化に対応するプランニングの学問として再構築する必要があることである。
 本書は、現在の都市工の研究室・研究グループや中堅教員の構成に基づき、シンプルに「1章 土地利用と施設配置」「2章 都市交通」「3章 住環境」「4章 都市デザイン」「5章 都市緑地」「6章 都市防災」「7章 広域計画」とし、これに都市工の教育の要である演習の内容に関連した「8章 計画策定技法」「9章 職能論」を加えた。「序章」は1章から7章までの内容を時代区分によって体系的に整理したものである。企画の段階では、例えば、「土地利用と交通を統合したプランニング」など従来の分野を融合した内容を共著で執筆する、「低炭素社会・脱炭素社会」という枠組みの下で各分野の内容を関連づけながら執筆する、分野融合的な「地区の計画とデザイン」の章をつくるなどのアイディアもあったが、教科書としての網羅性を維持しながら分野を大きく再構成することは無謀であることが分かった。従来の縦割りから何ら変わっていないとの批判を受けるかも知れないが、各執筆者は、現在の都市を取り巻く環境を幅広い視野で捉えた上で、それぞれの分野を核に分野融合を図ろうとしているし、都市計画の入門書としては、これまでに確立された分野の構成を尊重する方がむしろ良いとも考えた。
 執筆にあたり、自分の研究室・研究グループが取り扱う講義の入門的内容を体系的に整理することが求められた。しかも、成長時代から低成長・成熟時代への接続、今後の展望についても考える必要があった。「一体自分たちは何を学生に教えているのだろう。これで良いのか」と落ち込み、執筆作業が長期に渡ってストップすることもあった。学芸出版社の井口夏実さんの後押しもあって、一応、教科書としての体裁は何とか整えることができたが、正直、これで良かったのかとの不安も残る。
 時代の大きな転換期に学生から教員になってしまった1970年代以降生まれの都市計画専門家が試行錯誤しながら今の学生に教えている内容が本書にまとめられている。10年後にはもっとまともな切り口の「都市計画学」ができると良いが、そのような学の発展の足がかりとして、思い切って、本書を世に出すこととした。

2018年8月
著者一同