都市縮小時代の土地利用計画
多様な都市空間創出へ向けた課題と対応策

まえがき

 人口減少時代の本格的な到来と共に、政治、経済から日々の暮らしに至るあらゆる側面において、大きなパラダイムシフトが起きている。例えば、空家対策特別措置法に代表される空き家対策やまち・ひと・しごと創生法を根拠にする地方創生施策はその一面であり、配偶者控除の見直し等による女性の社会進出の促進や外国人観光客を大量に呼び込むインバウンド施策ですら、その別の一面であろう。社会のあらゆるマインドが、人口減少社会や超高齢化社会を前提に動いているといっても過言ではない。このような中で、都市計画の中でも土地利用計画を専門とする若手の研究者が集まり、人口減少下における都市のあり方を議論したのが本書のきっかけである。
 とりわけ、人口減少が進むことによって起こると予想される、器としての市街地の縮小化やその課題はどのようなものか、という問いは、都市計画に関係する者であるならば、誰でも想起するものであるはずである。これに対する都市論として、コンパクトシティやサステイナビリティ、スマートシュリンク等の考えはすでに出されていた。しかし、いずれも机上の論の印象は免れず、とかく実態としての都市の縮小化が明快に顕在化する以前においては、なおさらであった。
 特に危惧されるのは、コンパクトやシュリンクという言葉が、後退的でネガティブな印象を持つが故のマイナス思考の一人歩きである。確かに人口は減るかもしれない。しかし、大きなパラダイムシフトを千載一遇のチャンスと捉え、新しい暮らし方や都市のあり方を考える絶好の機会だと考えれば、かなり前向きなのであり、それができる現在は極めて重要ということになる。これが本書の動機である。
 他方で、都市縮小は欧米諸国にも共通する課題であり、都市縮小の原因はさておき、実態としての市街地縮小現象は同じ様相を呈する。国毎に都市計画法制度が異なり、都市の形成経過も異なる中で、都市縮小は国際比較の可能な貴重な研究課題ということができる。こうした中で、筆者は所属する大学のファカルティ・ディベロプメント事業を通じ、海外の都市縮小研究者を訪ねる機会を得た。何名かを訪ねて判ったことは、欧米では、物理的な市街地の縮小現象のみを取り上げ、その都市計画的対応のみを議論するのではなく、政治、経済や社会政策と一体化した計画論が考えられているという事実であった。もちろん実務的に縮小型都市計画を担うプランナーはいるのであろうが、少なくとも都市縮小を専門と名乗る研究者でこうした個別分野を取り上げる者は少ないということであろうか。都市縮小をタイトルに掲げる本書は、こうした彼岸との違いを認識しながら、あえて海外紹介の話題を含めることとした。これらの話題は前向きに今後の都市のあり方を考える上で有益なはずである。
 以上のような経緯から、本書は土地利用計画の側面から国内の都市縮小問題を捉えながら、海外事例の紹介をも含む点が大きな特徴となっている。また、都市計画に関わる大学研究者、行政担当者、計画系コンサルタントが著者となり、実際に直接関わった案件や研究事例を引きながら問題提起を行うと共に、海外研究者の何名かが加わることで国際的な視野から日本の課題の立ち位置を明らかにしている点も大きな特徴である。都市計画に関わる行政関係者、コンサルタント等の実務関係者、研究者、大学院生、さらには、まちづくりに関心をもっている議員、NPO 等任意団体のリーダーや一般市民にもぜひ読んでいただき、情報共有や情報交換等を通し、よりよい明日のまちづくりに役立てていただければ幸甚である。

2017年2月  日本建築学会都市計画委員会土地利用問題小委員会