地域おこし協力隊

日本を元気にする60人の挑戦

はじめに

 このたび、小田切徳美先生、平井太郎先生、総務省地域力創造グループをはじめ地域おこし協力隊を育んでくださった多くの方々のご協力のもと、協力隊メンバー、自治体職員、関係機関の方々にご執筆をいただき、本書を刊行することができました。このことは、制度創設者として誠に感慨深いものがあります。

 2009年度の制度創設時には、市町村や地域の皆さん、協力隊を志す皆さん方になかなか制度の詳細や財源措置の方法が理解されずに苦労した記憶がありますが、今では知らない市町村はないというまでになりました。また、地方創生の一環として、安倍総理から3000人目標という指示も出していただき、これからの制度の発展とそれに伴って変わっていく地域を見るのが本当に楽しみな状況になって参りました。さらに、協力隊としての任務修了後、地域に定住して起業したり、地域づくりの実践活動に携わって地域をリードする方も大勢出てきました。

 こういった動きは、その前年に過疎対策として集落支援員制度が創設されていたこと、NPO法人地球緑化センターが15年間にわたり「緑のふるさと協力隊」を実践されていたこと、また農林水産省の「田舎で働き隊」が補正予算によって創設されていたこと、さらに国際協力事業団の海外青年協力隊の帰国者たちが地方で起業したり産業おこしに携わっていたことなどが大いに参考になりました。

 その後、小田切先生が2011年度にイギリスのニューカッスル大学に行かれ、イギリスでは当たり前になっている社会的に成功した人材の地方回帰とそれに伴う「ネオ内発的発展」について、日本ではまだまだ例が少なく、政府として政策的に地方における外部人材の活用を促進することが必要だという指摘をされました。それに基づき、地域おこし協力隊のみならず地域力創造アドバイザー、域学連携、地域おこし企業人派遣など多くの試みがなされ、いずれも地域にとっては大変心強い制度であり、多くの成果も出てきています。

 さて、地域おこし協力隊の話に戻れば、数が増えるにつれて成功例をもてはやすばかりではなく、失敗例もあることをしっかりと認識し、そこから学ぶという姿勢も必要になると考えています。経営学でも、成功例に共通要素は少なく、すべてに個別の事情、特殊事情があるが、失敗例には一定の共通性があり、そこから失敗しないコツを学ぶべきだといわれています。

 これから先、地域おこし協力隊が当初の期待通り順調に成果をあげ続けていくためには、受け入れ自治体、担当する職員、受け入れ地域の皆さん、そして協力隊志願者の皆さん、それぞれが心して取り組んでいかなければならないことが多いように思います。また、制度を運用する総務省地域力創造グループにおいては、今後さらにこの制度が大きく飛躍していけるよう制度改善に努めていただく必要があると考えます。今回の出版が、それぞれの皆さんにその一端を理解していただく一助となればと強く願う次第です。

地域活性化センター理事長(元総務省地域力創造審議官) 椎川 忍