マイクロ・ライブラリー
人とまちをつなぐ小さな図書館

まえがき

 本書は、2014年8月に開催した「マイクロ・ライブラリーサミット」に来日したトッド・ボルさんと、日本全国から集まったマイクロ・ライブラリー活動を主宰、運営する方々の講演録に、新たに、スタンダードブックストアの中川和彦さん、デザイナーの服部滋樹さんのインタビューを加えてまとめました。改めて、マイクロ・ライブラリーが様々な街の中に根付きつつあり、小さな図書館活動を通して、互いの顔の見えるコミュニティがたくさん生まれていると実感しています。
 図書館というと、公共図書館か大学図書館をイメージしますが、実際に本に触れることができる場所という意味に捉えると、もっとたくさんあります。
 マイクロ・ライブラリーを主宰している人たちには、自分たちは図書館を運営しているという思いがあります。けれども、小さな図書館同士のつながりがなく、公共図書館や大学図書館のような認知度もありません。マイクロ・ライブラリーの活動を見えるようにしていく必要があると思いました。
 と申しますのも、私がまちライブラリーを始めたころ、兄弟からも「いい歳をして、何をやっているんだ。会社の仕事はないのか、そんなことやって儲かるのか。いい加減にしたらどうか」というようなことを、飲むたびに言われていました。「そうかなあ、でも面白いからしょうがないじゃない」と、自分にとっては大切だと思いながら、そう言われてみると、そうかなと、気持ちが揺らいでしまいました。
 こうした個人図書館の場合は、誰かが見ていて、背中を押してあげないと、どこかで挫折してしまう恐れがあります。誰かが反応してくれて、楽しいとか面白いとか、いろいろ言ってくれると、なんだかやる気が出てきて、またちょっとがんばってみようという気持ちになる。マイクロ・ライブラリーを主宰しているもの同士、お互いにこうした気持ちを共有して、ハグし合える関係性をつくれないかと思い、マイクロ・ライブラリーサミットを開催しました。

 マイクロ・ライブラリーのマークには、アリが描かれています。アリは、小さくて踏みつけられそうになりながら、実は地面の中に、ものすごく大きな巣穴をどんどんつくっている。
 地球上で真社会性を持っている生き物は、人間とアリ、ハチなど、すごく限られているといいます。真社会性とは、基本的に種の中で役割分担をし、利他的行為をします。アリは、一億五千万年前くらいに地球上に誕生したとされ、人間よりずっと昔に現れて、現在もその生活を維持し続けているのです。
 そういう意味で、アリとは味わいのあるマークを付けたものだなと、思っています。マイクロ・ライブラリーは、日の目を見ることは少ないのですが、ずっとこの運動を続けていくと、いつか我々の社会の中に、ものすごく密着したかたちで広がっていく可能性があるんじゃないか。このように私はだんだん思うようになってきました。

 第2回となるマイクロ・ライブラリーサミットには、アメリカのウィスコンシン州から、小さな巣箱型図書館「リトル・フリー・ライブラリー」の創始者であるトッド・ボルさんが来日しました。
 トッドさんがリトル・フリー・ラブラリーをスタートさせたのが2009年。それがどんどん広がって、2014年の秋には、全米50州はもちろんのこと、全世界75ヶ国、2万ヶ所にまで広がりました。
 リトル・フリー・ライブラリーに参加したある人が、巣箱型図書館を家の前に置いてから5日間で出会った人の数は、その土地に10年、20年いた期間に会った人よりも多いと言ったそうです。
 面と向かって話し合ったり、ほんのちょっと声を掛けたり、手を貸してあげたりといった関係がどんどん薄くなってきている。それが、巣箱を置くことによって、昔の地域社会のつながりが、戻ってきているんだと感じました。
 ぜひ、こうした活動が日本でも広がっていくといい、私は、このマイクロ・ライブラリーが、地域とつながる図書館活動に、徐々に変革していけばいいと思います。

 この本を読んで、皆さんにも「私はこれをやろう」と、参加できるところを、ぜひ、見つけてほしいと思います。
 本を寄贈することならできるとか、巣箱をつくってみようとか、こんなかたちのマイクロ・ライブラリーをやってみようとか、頑張っているライブラリーを応援しようでもいいです。
 そういう人が一人でも二人でも現れることになればとても嬉しく思います。

礒井純充