にぎわいの場 富山グランドプラザ
稼働率100%の公共空間のつくり方

おわりに


 富山市中心市街地活性化基本計画(第1期)の中で位置づけ整備されたグランドプラザは、2012年度から始まった第2期計画でもその管理運営が重要な事業として位置づけられています。富山市の中心市街地活性化は、成功事例として全国に認知されており、私は(財)まちづくりとやまの一員として、今年度から視察の対応も担当しています。視察対応では、各地から来られる行政マン、商業者の方とお会いし、各々の地域における多種多様な課題について意見交換をする機会を得ています。そして、こうした機会を通し、いまの富山市が素晴らしいのは、中心市街地に関わるみんなが日々前進しようとする姿勢を持ち続け、また、その活動について互いに尊重し理解している点だと感じました。
 2002年の初当選以来、富山市政を牽引されておられる森雅志市長は、戦略的な都市政策を打ち立てながら、年間100回に及ぶタウンミーティングを実施される等、自ら市民との対話に多くの時間を当てられています。こうして市長自らが語り合う場を重ねられていることもあり、中心市街地の活性化に重点が置かれる市のビジョンに対し市民も夢を抱き協力的です。グランドプラザも森市長の示される明快な政策あってこそ誕生した奇跡の空間だと感謝しています。
 2015年春にはいよいよ北陸新幹線が開業します。さすがと感じる強烈なビジョンは新幹線の登場をもって完成とするのではなく、富山駅付近の連続立体交差事業も同時に工事が進んでいることです。これは、富山駅を高架化することで、鉄道により分断されていた駅周辺エリアをいま一度歩行者のための空間とし、また、富山駅北側のポートラムが走るライトレールと、南側のセントラムが走る市内電車都心環状線等を接続する構想です。そして、富山駅周辺や中心市街地には、交通結節点に新たな広場を整備する計画もあると聞いています。これらは、市民の移動の動線が大きく変わる数十年に一度の大プロジェクトであり、歩行者を支える公共交通や公共空間がますます便利となるよう整備されることになります。
 さらに今年度からは、民間事業者による中心市街地のカーシェアリングもはじまりました。豊かさとは選択肢があることだと感じています。富山市中心市街地では移動手段がその日の天候や気分によって選べ、それが暮らしを豊かにしているのです。都心地区が魅力的なエリアとなり、モビリティの質が高まり、まちなかで移動をする際にどの店に寄り道しようかしらとか、この季節はあの道の花を愛でながら通ろうという楽しみがうまれています。
 これが歩いて暮らせる、歩いて暮らしたくなるまちづくりを進める富山市の魅力です。

 先日、初夏の豊島美術館(香川県)を訪ねる機会に恵まれました。島には船でしか渡れず、商店や民家よりも濃緑の山々、大きく高く青く光る空、向こうに広がる海が色めく大きな眺めを通り抜け、いまにも夕立が降りそうな空の下、バスでやっと辿り着きました。海のそばを歩き、アプローチ部分を抜けると美術館の入口が現れ、くぐって中に入った途端、人の安堵した気持ちが溢れていました。ここは天井にぽっかりと穴が開いた建築的な美術作品であり、雨が入り陽射しも直接射し込みますが、柔らかな丸みを帯びた乳白色の壁面が一枚の皮膜のように床から天井まで続き、母の胎内にいるような安心感が空間を包み込み、そこにいる全員が幸福感に満たされているようでした。
 屋根がガラスでできているグランドプラザも、空がダイレクトに感じられます。透明な屋根に守られながら、大きな空の下に自分の身をおくことができる空間になっているのです。そこでは、大きな声で話す人の姿はなく、全員が互いを感じ合い尊重し、自分の居心地の良さを満喫しながら通り抜ける自然の風の中で各々が過ごしています。
 人が安心して暮らしていくために寄り添い集まった集落の延長である現代の都市において、皆で安心して過ごせる場所がどれだけあるだろうかと考えました。大きなひとつ屋根の下、人々が集い、感じ合い、感動がうまれ、微笑み合えるまちなか広場の素晴らしさを、私は、日々ワクワクしながら、これからも精一杯伝え続けていきたいと思っています。
 私の愛する富山でグランドプラザに出会えたおかげで、たくさんの出会いに恵まれ、本書を書き上げることができました。そして、今回の執筆にあたり、大変多くの方々のご協力、励ましをいただきました。気づきの数々は、私ひとりのものでは決してありません。今回の執筆にあたり、多くのご助言をいただきました皆々様に深く感謝申し上げます。特に、都市整備部をはじめとする富山市役所の皆様、私の所属する(財)まちづくりとやま(代表取締役社長神田昌幸氏、同副社長中田眞一氏)の皆様、グランドプラザ事務所の歴代スタッフの皆様、NPO法人GPネットワーク(理事長五艘光洋氏)の皆様、いつもたくさんの教えをくださる宮口としみち先生、そして卒業後も見守り執筆を始める勇気をくださった全国地域リーダー養成塾塾長の大森彌先生には大変お世話になりました。その他にも多くの方々に支えられ書き上げることができました。また、学芸出版社の前田裕資さんと中木保代さんに、心より御礼申し上げます。なお、本書の内容や表現につきましては、私個人の見解と感想に基づくものですので、ご了承ください。
 これからもますます魅力ある都市になるであろう富山市の一市民として、歓びとともに。

2013年8月  山下裕子