自転車コミュニティビジネス
エコに楽しく地域を変える

おわりに

 自転車という題材に取り組み始めたのが2002年だから、すでに10年が過ぎたことになる。思い返せば、自転車には通勤で乗っている程度で、研究テーマとかまちづくり実践のテーマとして取り組もうとは思ってもいなかったのだ。ところが、ひょんなことから自転車の委員会に巻き込まれる中で、「あれ?自転車ってけっこう面白いし、すごく可能性を秘めているな」と思ったのがきっかけだった。そして自転車好きの方々が、あれこれ議論する前に動いて調査したり実践するというタイプであることに惹かれていった。今思えば、身体から計画するということも無意識ながら楽しんでいたのかもしれない。議論はするけれど、この自転車というテーマはなかなかマクロ的にならないのである。放置問題にしてもレンタサイクルにしても、他のごみ問題や環境基本計画や公共交通活性化会議とは違って、あくまでもミクロなヒトと自転車と空間との関係からずれることはない。机上の空論になりにくいのだ。パタンランゲージを提唱するアレグザンダーは、マスタープランは失敗すると言いきっている。自転車計画も、そういったマスタープランではなかなかに市民のカラダとはつながりにくい。そこで、本書は言わば、自転車版パタンランゲージをつくってみようという試みでもあった。自転車にとって居心地のよい空間をパッチワークのように組み上げる試みである。
 この試みが成功したかどうかはわからない。もしかしたら、自転車で一儲けしようとした方には拍子抜けであったかもしれない。決して儲かるコツを述べているわけではないからだ。ただ、取材をしている皆さんに共通するのは、自転車がもつ等身大性、身の丈発想ということである。この身の丈コンセプトこそが自転車コミュニティビジネスのぶれない大事な点であろう。
 本書の企画をはじめたのは2011年11月のことであった。五環生活が5周年を迎えて、今一度自分たちのことを振り返ってみたいということと、若いスタッフにむしろ国内のさまざまな事例を取材する中で学んで欲しいという意図も持っていた。学芸出版社の岩崎さんに相談しながら、新しい自転車コミュニティビジネスの動向を広く紹介する趣旨で企画を立て、その後は五環生活ならびに輪の国びわ湖のみんなに取材と執筆を怒濤の勢いで進めてもらった。執筆が初めての若いスタッフもいて、それらをリライト的に支えてくれたのが目片雅絵さんである。遅々として進まない私の執筆を後押ししていただいて、何とか2013年春には間に合うことになった。
 取材に応じていただいた各地の皆さんには、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。また、NPO法人五環生活は、歴代の理事・スタッフそして会員さんはじめさまざまな皆様に支えられてきました。そういったつながりの中にあってこそ、自転車コミュニティビジネスを続けさせていただくことができていると思います。ありがとうございました。

近藤隆二郎