地域資源を活かす温暖化対策
自立する地域をめざして

はじめに


 地球温暖化防止に向けて持続可能な社会・経済への転換が起こりつつある時に、私たちの世代では経験したことのない規模の地震が、2011年3月11日に起こりました。これまで「安全でクリーン」を喧伝して推進してきた原子力発電所の事故が起こり、震災の被害に加えて広範な地域が放射能の危険にさらされる事態に至りました。エネルギー政策の中心に原子力を位置づけて推進してきましたが、同時に、石炭火力発電を拡大し、省エネや再生可能エネルギー普及を後回しにしてきました。そのため「原子力に依存する地球温暖化対策」は成果をあげてきませんでした。原子力に依存する地域おこしも大きなリスクをともない持続可能でないことが露呈しました。

 今こそ、持続可能な地域づくりの視点から震災復興を進め、リスクやコストの高い原発依存から脱却することと地球温暖化対策を両立させ、持続可能で低炭素な社会・経済の具体的モデルを地域から進めていく時でしょう。また世界にも参考となるような温暖化対策を提示し、進めていく必要があります。

 世界が、持続可能で低炭素への流れに向かうきっかけとなったのは、1997年に採択された「京都議定書」であることは間違いありません。「これまでの経済発展や社会開発の方法が持続可能でない。他の道を探らなければならい」という方向転換を示唆する具体的な約束をしたのが京都議定書です。世界の多くの国が参加して決めたことが、国レベルの方針、そして地域の暮らしや社会のあり方に影響しています。その理念をもとにして、危険な気候変動の影響を避けるための交渉の中で、2010年12月に「カンクン合意」が採択されました。しかし、それを具体的な内容にするための交渉は続けられています。その交渉を結実させ、地球規模の温暖化・気候変動問題を解決するためには、国際レベル・国レベル・地域レベルのそれぞれが役割をもち取り組んでいく必要があります。地域から低炭素社会・経済を実現することが、国に良い影響を与え、国際交渉進展の妨げとなっている日本のポジションが変われば、国際合意も進んでいくことが期待できます。

 地球温暖化対策はコストがかかり経済に悪影響を及ぼすとされて、対策を進めないようにする主張があります。しかしこのままの社会・経済のあり方を進めていくことは地球環境の悪化のみならず経済活動や雇用にも悪影響を及ぼします。逆に温暖化対策を進めることは、経済・社会を安定化させ雇用や地域の活力を生み出すことにつながります。地域の課題を解決し、地域の資源を活かすような地球温暖化対策の推進を提示するのが本書の目的です。

 2007年に発行した『市民・地域が進める地球温暖化防止』では、Think of the future, Act now! をテーマとして、地域の先進的な政策や取り組み事例の概要・背景・成果とその要因・課題等について述べました。その後、それぞれの事例が進化・普及し、地域の政策・仕組みづくりも一定の進展がみられるようになってきました。一方で、地球温暖化・気候変動の被害が増大していて、危惧していた「future」が近づいています。「脱温暖化・低炭素社会・経済」への転換の時間は残り少なくなるばかりで、今、選択を誤ると、気候変動の悪影響が計り知れない未来になってしまいます。今こそ地域から低炭素経済・社会に向けた選択をし行動していく必要があります。

 低炭素である地域を実現するためにはさまざまな変化が必要で、痛みの伴うこともあります。将来的にメリットがあるが、当面はコスト負担となる場合もあります。この課題を乗り越えるためには、地域の市民の理解と合意が必要で、地域の温暖化対策を進めることが地域の活性化になるとの理解を求め、参画してもらわなければなりません。筆者らは、研究者・NGOの立場から、地域の温暖化防止政策・仕組み、先進事例などについて研究調査し、実践活動も行ってきています。その蓄積をもとに、温暖化対策が地域の課題克服や活性化になる事例を紹介し、その要因分析や波及の可能性について広く知っていただきたく、本書を執筆しました。

 本書は、第T部で温暖化問題の最新動向と、地域における温暖化対策の動向、地域活性化・地域づくりの視点からの温暖化対策、地域資源について述べています。第U部では、地域活性化と温暖化対策をつなげている国内外の先進事例を取り上げ、その概要・成果と要因、分析を記述しています。第V部では、事例について分析し、温暖化対策を進めるためには、そして地域活性化につなげるためには何が必要で、どのように地域資源を活用すべきかについて検討し、提言もまとめています。

 地球温暖化・気候変動問題に関心をもっている人、企業や自治体、地域組織やNGOでこの問題に取り組んでいる人々に読んでいただき、持続可能で低炭素の地域づくりにつなげていただきたいと考えています。地球温暖化対策という大きな課題の解決に向けて、本書を通じて、まちづくり・仕事づくり・人づくりが地域だからこそ可能であり重要であること、そしてそうした取り組みの先に見える新しい未来をお伝えできれば幸いです。

2011年6月 田浦健朗