観光
新しい地域(くに)づくり

はじめに

 「観光立国」の旗印のもと観光振興が国策として推進され各地で官民あげてその推進に取り組みつつあります。
 国際交流促進のためにも、また地域経済活性化のためにも心強いことと思います。
 しかし実務者の目からみると依然として観光について多くの誤解や理解不足が見受けられることが残念でなりません。
 「観光は単なる遊びにすぎない」「観光はものづくりの一段下の次元の行為だ」「ここは目立った産業もないから観光でもやるしかない」というような声を今なお耳にします。
 各地に観光学科をもつ大学が増え、観光を学ぼうとする人も増えてきました。観光にかかわる学術書も出るようになりました。しかし反面、観光の本といえば「各種資格試験の受験参考書」と「ガイドブック」が今も幅をきかせています。
 私もつい先日会った人に「今観光の本を書いています」と話したら「どこのガイドブックですか」と聞かれ当惑したことがあります。観光にかかわる学校の非常勤講師もしていますが適当な教科書が少ないように思えてなりません。
 要するにまだ「観光学」は若い学問であり、一部観光地を除いて「観光」の社会的な地位・評価も必ずしも高くない段階にあることを思い知らされます。
 
 最近観光について私が知りたかったことや、私自身が観光を少しずつ学んできたその道すじを今一度ふりかえって、そこで得たことをまとめてみたいと思うようになりました。また「観光」は若い学問ですから、観光を学ぶにつれて先人の明に学びながら自分独自のいわば自分の「観光論」を作りあげる余地がまだ残っているようにも思えてきました。そのような自分の経験を活かし自分の求めたい「観光」に挑戦しようとしてまとめてみたのが本書であります。
 したがって観光を内容とする本としては、その項目、章だても記述順序も既存のものとは異なったものになってしまいました。恥を偲んであえて未熟な「観光論」を上梓しましたのは、むしろこのような私の観光論に読者の皆さんのご批判、ご感想をお聞かせいただき、私なりの「新観光論」を整理したいと思ったからでもあります。強いてこの本の特色をあげるならば「観光」を実務者としての目からみたものであること、新進の研究者としての目線でものをみている点にあると思います。この本の内容の未熟さを、皆さんの心の中で皆さんのお考えとあわせて、皆さん独自の「観光論」として完成させていただきたいものと念願しております。そのための素材として本書が何かのお役に立てるとすれば望外のよろこびです。
 
平成21年9月 須田 寛