観光
新しい地域(くに)づくり

むすびに代えて

 この本を通じて「観光」は人間の本能に根ざす「文化的活動」であり、またそれによる人的交流を通じて大きい経済効果をもたらす「経済活動」であることをみてきました。同時に観光振興のためには、官民あげて、多くの人々の参加が前提となり、それらの関係者や関係機関の幅広い「連携」と「協働」のうえに成り立つことを確認しました。そして観光行動の目的は「観光立国」であり、そこから国際間の相互理解を実現し究極の世界平和とゆたかな人間生活をめざすものでありました。すなわち「文化活動」「経済活動」であること、それに「連携」「協働」が「観光」のキーワードということができます。
 観光振興への努力の根底にあるものは、すべての人々が「観光するこころ」をもつことにあると考えます。「観光するこころ」とは様々なものをみるとき、考えるとき、たえず「観光」を念頭において価値判断し行動するという心をもつことであります。
 われわれは自分のまわりにいつもあるものについては、ともすれば無関心に過しがちです。
 しかし「観光するこころ」すなわち「観光する人」の目線にたってまわりをみつめ直せば、そこに他地域の人々に「心をこめて観(しめ)す」に足りるものが多くあることに気付くことができます。そこから「新しい観光」が育って新しい交流がめばえるのです。
 また観光客は「観光するこころ」をもって観光対象にふれ、それを敬虔な姿勢で「心をこめて」観ることが求められます。その姿勢あってこそ、その対象からより充実した観光効果が得られるでありましょう。
 一方観光客を受け入れる人々は「観光するこころ」をもって、すなわち暖かいもてなしの心をもって旅人を迎えることが望まれます。
 このように「観光するこころ」をもった人同士がふれあうとき、そこにひとつのよきコミュニケーションが生まれ、観光客と受入側の人々の間に対話が生まれることになります。このように人々の実り多い交流が実現するとき、そこに観光を通じて新しい「文化」が育まれることになると思います。
 これからの国際社会を、また日本を平和でゆたかな住みやすいものとするためのいとなみを、この観光交流による新しい文化が支えていくことになるでしょう。二一世紀の世界文化をつくりあげるためにも「観光」の果たすべき役割はきわめて重かつ大であると考えます。
 
 本書の上梓にあたり多くの方々のお世話になりました。
 とくに丁野朗さん、伊藤陽朗さん、太田芳美さん、雨森雄一さん、真部幸久さんには格段のご指導ご支援をいただきました。
 また学芸出版社の前田裕資さんはじめスタッフの皆さんの御高配を得ました。厚く御礼申し上げます。