まちづくりキーワード事典 第三版


はじめに

 昭和60年代以後、全国の市町村で「まちづくり」が行われるようになった。そして、それから20年を経た平成21年の現在、まさに今は「まちづくりの時代」である。
 しかし、まちづくりとはどういうことかと説明を求められても、なかなかうまい説明が見いだせない。ましてやここで定義することは難しい。それは、まちづくりの概念が、変化、多様化してきたことによる。当初は都市計画やそれに関連する事業がまちづくりと言われた。次に、まちおこしやイベント、そして仕掛けづくりなどの地域の活性化につながることもまちづくりと呼ばれるようになった。そして現在は仕組みづくりや人づくりもまちづくりと呼ばれるようになり、ハードな面からソフトな面の意味まで含むようになった。また、まちづくりは、地域や地区レベルでの意味から国土計画のような広域的な意味を含めて使われることもある。
 用語の使い方をみると「街づくり」「町づくり」「まちづくり」がある。一般的に、「街づくり」は市街地などのように町会を超えた地区や地域を対象にする場合に用いられ、「町づくり」は自治会を単位として扱う場合に用いられ、「まちづくり」はソフトな意味を含めて幅広い意味で使う場合に多く用いられている。
 「まちづくり」は、明確な定義がないだけ、様々な要素や側面を含めた意味で使うことができ、使う側からすれば使いやすい言葉である。これがよく使われている一つの要因であろう。
 また、住民にとっては、上位計画的に決められた「計画」という表現よりは、合意形成しながら、自らが関与し、共に知恵を出しあうというような意味が込められた言葉である。そのため、民主的で現代的であり、「○○計画」と言うより「まちづくり」と言うほうが住民にも響く。そして、わかりやすく、自らの夢や希望の実現に期待を抱かせられる言葉である。このようなところが多用化される所以であろうか。
 英語ではコミュニティプランニング(Community Planning)があるが、これも解釈しようによってはいくらでも広義に解釈できる言葉である。以上で述べてきたような言葉の使い方は決してその意味を逸脱したものではないだろうが、なかなか適当な訳語はない。
 本来まちづくりは一つであるが、現実的には、景観、安心・安全、福祉、環境、そして市民まちづくりなどのように、様々な側面から展開されている。総合的なまちづくりの体系があってそれらの各分野が展開されているというよりは、それぞれの分野のまちづくりが新たに展開されているのが実態である。そのため、これからは総合的な観点から調整することが課題となってくる。
 さて、まちづくりの勉強をしたいと思うが、まず勉強するための基本となる適当な図書がない。勉強するにもまず言葉の理解が必要だが、なかなかまちづくりに関する適当な辞書がない、また、分野別の図書はあっても各分野を一覧できるような総合的な図書がない。
 本書はそのような現状を踏まえ、行政やコンサルタントの実務家やこれから学ぼうとする学生が、総合的にまちづくりを理解できるように、「基本事項」「住宅・住環境まちづくり」「景観まちづくり」「歴史を生かしたまちづくり」「安心・安全まちづくり」「交通からみたまちづくり」「福祉のまちづくり」「水と緑(オープンスペース)のまちづくり」「生態環境のまちづくり」「物質・エネルギー循環とまちづくり」「まちづくりと経済」「市民まちづくり」の各分野を取り上げ、分野ごとに理念や計画・手法的な面を中心にキーワードを選び、具体的な事例を加え解説している。
 キーワードは、国土計画や都市全体的な広範囲のものよりは、地域や地区的なまちづくりに関連するものを中心に、今後のまちづくりの方向性を見据え最新の話題となっているものを選んでいる。そのため、新たにまちづくりに携わる人にとってはタイムリーで、また、これまで携わってきた人でも今までの知識を最新の情報で整理し、今後のまちづくりを展望するのに役に立つと考えている。
 基本的に各分野は、解説とメインのキーワード及びサブキーワードで構成されている。解説では、一般的に使われている言葉も含めたキーワードの関連図も加え、各分野のまちづくりの概要が理解できるように意図している。メインのキーワードでは、具体例を挙げ、図、表、あるいは写真入りで、できるだけわかりやすく解説している。サブキーワードは、よく使われる言葉や文中に出てくる言葉の解説として補足的に取り上げている。
 全体的に本書は、辞書としての言葉の理解から、各分野のまちづくりの概要、さらにはまちづくりの全体像を理解できるように計画し、よき手引き書となることを意図している。
 以上のような意図で1997年に第1版を出版した。そして、5年後の2002年に第2版を出版し、この度、第3版を出版することができた。この間、新しい法律の制定などの動きがあり、そしてまちづくりという言葉の持つ意味の一層の多様化が進んだ。そのため、今回はこのような現状を踏まえ、全面的な見直しを行うことにした。時代の変化にあわせ、「防災」と「防犯」を「安心・安全」とまとめるなどの改編も行った。しかし、紙幅の関係でできなかったこともある。まだ万全とは言いがたいが、今後とも時代、社会の変化に対応し内容を見直していきたい。
 執筆陣の名称はまちづくりコラボレーションである。コラボレーション(collaboration)には共同研究、共同作業、合作、協力などの意味がある。第1版の出版時にはまだ一般的な言葉ではなく、わかりにくいのではないかという意見もあった。しかし、今ではコラボレーションという言葉はよく使われる言葉として定着してきている。
 数年前にこのグループで『まちづくりの近未来』を出版した。これからのまちづくりを考えるために参考になればと思っている。本書と併せて読んでいただければ幸いである。
 本書の出版には、学芸出版社の前田裕資氏の力が大きい。そして、第2版では永井美保氏、また第3版では森國洋行氏に細やかなご指摘を多くいただいた。その結果できた本である。従って本書は、執筆陣とこれら学芸出版社編集陣とのコラボレーションの結果である。
  2009年6月
まちづくりコラボレーション代表 三舩康道