提言!仮設市街地


はじめに

  大地震をはじめ、ハリケーン、津波、洪水などの自然災害が、日本だけでなく世界各地で近年起こってきています。特に、それらが人口密集地、都市を襲うことが多く、きわめて甚大な被害を及ぼし、復旧・復興にも長い時間がかかっています。
 自然災害が頻発するのは、地球温暖化に伴う異常気象や、地殻の活動が高まっていることなどによる、と言われており、それが襲ってくるのはある程度やむを得ないとするにせよ、それによって引き起こされる人的・物的被害を少しでも減らすことはできないものでしょうか。あるいは、私たち都市に住む人々がもう少しそのための準備に目を向けたり、力を出し合うことはできないものでしょうか。
 そんな問題意識を持ちながら、私たち都市計画、まちづくり、都市社会学などの領域で、防災・復興まちづくりなどの実務や研究、そして計画や提案を行なってきたグループのメンバーが、それぞれ抱える思いや課題、成果を持ち寄り、一度まとめてみることにしました。その結果、今後予想される大災害に対する備えとして、「仮設市街地」という考え方を提言しようということになりました。

  この「仮設市街地」を提言するにあたって、次のような点を私たちの立脚点とし、また、この本のねらいとしました。
1. 大地震発生の予知については、さまざまな研究が進められてきているが、まだ途上である。一方、大きな地震は、近い将来、ある地域に必ず起こる。であるならば、予知・予測への取組みを進めつつも、力点をいっそう大きく予防・減災に置き、不幸にも大地震が起こってしまった後、いかに早く回復・復旧・復興をするかの方策を、まちづくり、地域社会づくりの観点から準備しておくことが大事である。
  地震対応の時系列の段階では、復興まちづくりの段階を主たる対象としていく。
2. 震災からの復興を円滑に進めるために、被災地(あるいは被災が予想される場所)の至近にあるオープンスペース(公園、農地、大規模未利用地など)にあらかじめ、あるいは被災直後に、「仮設市街地」という復興拠点・生活基地を用意することを提案していく。
  この「仮設市街地」は震災復興まちづくりを支える場であると同時に、それを迅速に進める機能およびシステムをいう。そしてその立地にあたっては、@地域一括原則、A被災地近接原則、B被災者主体原則、C生活総体原則、という4つの原則を基本とする。
3. いつ、どこに、どれくらいの規模で起こるか分からない地震に対して、十分な装備・施設を巨額の経費をかけて設けるのは、実際には難しい。
  したがって、日常の生活の場のあらゆる仕組みや、地域社会の関係の中に、災害対応のシステムと考え方、さらに、訓練や実践を組込んでいくことの大切さを強調していく。

  大切なのは、誰かまかせの危機管理ではなく、地域に住み、働く。私たち一人ひとりの日常の営みの中にそれを組み込ませて、地域社会を基点とした安心・安全まちづくりを進めていくことです。大災害というきわめて深刻なできごとを、不幸な事態、悲しみのなかに終始させるのではなく、仮設市街地をとおして安心・安全なまちを実現していきたいと思います。
 可能なかぎり、大災害の要因・原因を日常から減らす努力をしていく「減災」、地域の人々の力を束ねて、災害に打ち克つ力を養っていく「克災」、さらには災害をゆるやかに迎え撃つべく用意を積み重ねる「迎災」に向けて、「仮設市街地」の考え方が、広く役立つことを願ってやみません。

2008年5月
仮設市街地研究会
濱田甚三郎、大熊喜昌、松川淳子原 昭夫、鳥山千尋
山谷 明、森反章夫、江田隆三、阪野直子