サイン環境のユニバーサルデザイン
計画・設計のための108の視点
はじめに
アメリカにおいて提唱されたユニバーサルデザインという概念が、近年日本でも広まっています。しかし、ユニバーサルデザインはどうすればできるのか、具体的なデザインについて回答が存在しているわけではありません。このままでは言葉だけが先行し中身が伴わないといったことになりかねません。
そこで本書では複雑に高度化する都市環境において重要な役割を担っているサインに注目し、ユニバーサルデザインとは何か、ユニバーサルデザインとしてのサイン環境はいかにあるべきかを考えてみました。
サインはバリアフリーデザインと深く関わっています。
福祉のまちづくり運動が盛んになったのは、公害や都市問題など高度経済成長のマイナス面への反省から、生活環境のあり方に多くの市民の関心が集まった1970年代です。それまで自宅や施設に閉じ込められていた人たちの社会参加のために、公共施設のバリアフリー化が進められたのです。しかし当時は、車いす使用者を中心とする限られた人たちの生活圏の拡大にとどまり、行政の姿勢にも気の毒な人たちに「特にしてあげる」という側面があったことは否めません。
このような限界が意識されはじめたのは、1981年の国際障害者年の頃からです。超高齢社会の到来が話題になり、バリアがあっては社会参加が難しい人たちが少数派ではなくなる日がリアリティを持ちはじめたのです。その結果、特定の人のためにまちづくりを進めるのではなく、すべての人にとって快適なまちづくりが目指されるようになりました。バリアフリーのあり方が見直されはじめたのです。「すべての人のために」という理念を掲げるユニバーサルデザインが注目されるのは、このような背景があるからです。
サインもこれまでのバリアフリーデザインとしてのあり方を越え、美しくかつ心を癒す重要な環境要素とならなければなりません。個々の障害への個別の対応だけではなく、全体的な取り組みとして見直されなければならないのです。
本書はこのような視点から、サイン環境を見直し将来のあるべき姿を示すために、国内外の事例調査や、これらの環境設計や計画に関する現段階での研究成果を整理したものです。なにぶんにもまだまだ調査研究の途中段階で不十分ですが、本書が新しい世紀のまちづくりを考えようとしている方々の共通の手がかりとなれば幸いです。
なお、本調査研究の実施にあたり文部省の国際学術調査としての援助を頂きましたことに、厚く感謝申しあげます。
1999年8月4日田中直人
学芸出版社
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