町家型集合住宅


あとがき


  われわれが町家型集合住宅に取り組みはじめたのは、いまから一〇年以上前にさかのぼる。当時、京都市は都心部の居住について三重苦に悩まされていた。都心部は人口の流出によって市民活力が低下し、コミュニティの崩壊の危機にさらされる一方で、民間マンションの建設によって近隣紛争が多発し、京都らしい町並み景観が壊されていった。しかもそのマンションは投機的に購入されて、価格は高騰するが、空き家のまま放置されるという有り様であった。今日から振り返ると、最盛期のバブル経済に苦しめられていたことになる。

  このような事態を建築行政の立場から打開しようという研究を進め、京都市に対して七項目の提言を行なった。そのうちの一つが「『町家型共同住宅』の開発とモデル建設」であったが、市の要請によりこれを具体化することになり、あらためて研究会を組織して、平成三年度にスタートしたのである。

  この研究開発は、平成三年度から九年度にわたって次のようなプロセスで進められた。

   @「町家型共同住宅」の計画課題の整理と計画理念の構築
   A都心三区における共同住宅建設の実態調査と街区の類型化
   B町家型共同住宅についての市民提案コンペの実施と作品集の刊行
   C多数の一般市民と専門家の参加によるシンポジウムの開催
   D「町家型共同住宅設計ガイドブック」の刊行
   E町家型共同住宅の試設計による敷地特性に応じたスタディ
   F民間住宅モデルおよび公共住宅モデルの基本計画の作成
   G民間住宅(北野洛邑館・柳小路)および公共住宅(コンフォート出水)の完成
  このような経緯をもって、「町家型共同住宅」の研究・開発・行政・事業にかかわる一連の取り組みはいちおう終了とすることになった。この取り組みは、マンションを対象とする建築行政として始まったが、従来の建築行政の主要な手法である「規制」ではなく、町家型共同住宅の実物モデルを示すことによる「誘導」をめざした。また調査研究、設計提案、シンポジウム、市民コンペ、設計ガイドブック、モデルプロジェクトの建設という一連のプロセスを歩んだところにも特徴がある。

  このような「町家型共同住宅の開発・計画と建築活動の行政的誘導」の業績に対して、幸いにも、平成七年度の日本計画行政学会計画賞を受賞した。また「コンフォート出水」は、平成一〇年度の「建設大臣表彰」と「住宅金融公庫総裁表彰」を受けた。

  さて本書は、町家型集合住宅に関して進めてきたこのような一連の研究開発・提案にさらに検討を加えてとりまとめたものである。とりまとめるに当たって、これまで「町家型共同住宅」と称してきたのを「町家型集合住宅」に改称することにした。両者は実質的には同じものであるけれども、建築計画分野での一般用語である「集合住宅」の方がより適切であると判断したためである。本書の内容については、各分担者が研究会の席上分担章を報告し、全員で討議した上で修正を加えた。各章間のつながりを良くして全体を理解しやすくするために、各章の冒頭に解説文を記述した。解説文の執筆は巽が担当した。

  本書が誕生するに至る過程では多くの方々に多大のご尽力を頂いた。町家型共同住宅研究会では、京都市住宅局長、理事をはじめ多数の職員の方々、シンポジウムの講師やパネリストを務めて下さった各分野の専門家の諸氏、コンペやシンポジウムやプロジェクトに参加してくださった市民、事業者等の皆様に心より感謝したい。また研究のとりまとめ段階で支援をしてくださったHC財団・鎌田宜夫氏に厚くお礼申し上げたい。

  また本書の出版を快く引き受けて下さった学芸出版社、特に編集にひとかたならぬご苦労をおかけした前田裕資さんと永井美保さんに、深く感謝したい。

  一九九九年三月

巽 和夫


学芸出版社
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