街づくりの変革

書  評


『都市計画』 219号

 本書は、行政マンとしての実績の上に著者が都市計画・都市問題に関してこれまで述べてきたものの集大成である。大きく5部構成をとり、第1〜3部「都市計画のパラダイムの変換」「計画から介入へ」「住宅政策を考えなおす」を主要部分として、第4・5部は、幕張・横浜と、自らが関わった開発事例のプロセスをまとめ、新しい都市づくりのあり方について提言をしている。
 第1・2部では、まず先進諸国で計画という意思決定システム自体が誤りだとする自問が起きているという認識の上で、社会構造不変の前提で将来動向を予測し商工業施設を配置して「都市」を作る従来の考え方を自己否定している。専門家の間にこうした思考プロセスの問題があるのは、我が国に「都市計画教育」がなく、工・法学体系の中でしか都市を捕らえられないからだとしている。
 また、現在の産業構造の再編を農業革命・工業革命からの流れの中で第三次「心業革命」と表現し、バーチャル・フェイク都市などと対比させ、多様なライフステージにおける心の幸せの享受に対応する為にはリアルな都市が必要だとする。
 例えば市場原理に基づいた地方都市郊外のSC立地に対し、既存の硬直化した計画によるコントロールは不可能であり、前提条件が既に変わっている、しかもそれは常に揺れ動いているということを認識し、計画哲学の根底から考える時が来ているとする。我が国都市計画法の成立基盤をえぐり、1919年法から引きずっている問題、関係法例との間での整合性の無さ、小手先の手法で目先の問題に対応していることなどを批判し、都市計画が本当に目指すべきまちのあり方を白紙から捉え直し、国家全体としての計画理念・政策を打ち出すことを訴えている。
 第3部では住まいからまちを作るべきとの考えに基づき、住宅政策の問題を取り上げている。近代都市計画批判として歴史・文化との関係性を強調し、アメリカの開発主義的思想は彼の国の発展プロセスと関係が深く、ヨーロッパではまた違った価値観があると説き、我が国も固有の生活スタイルの延長線上にある思考方法で事に当たるべきだとしている。ただ、データが58住調をベースにしており、現況を捉え切れていないのは惜しい。
 全体として、具体的な内情をよく知り実現の難しいことも承知の上で、あえて新しい視点で主張をしておかなければいけない、という意志が感じられ、説得力がある。行政・民間・大学などの現状への切り口からみても、読み応えのある一冊である。

(紹介:情報委員 山中 正樹)


蓑原敬/学芸出版社

目次へ
学芸ホーム頁に戻る