図説 建築環境


はじめに

 本書『図説 建築環境』は、建築環境工学の教科書であるが、建築計画原論から発展した分野であることを強調する意味も込めて、このタイトルにさせていただいた。建築環境工学は、機械設備を駆使した工学的技術に重点をおいた教育に比重が移りつつあると言えるだろう。しかし、建築環境工学はあくまでも建築空間をデザインすることで健康で快適な環境を創り出すための知識・技術を教える科目であり、機械やエネルギーを使用することは、最小限にとどめるべきことを強調したいという気持ちの表れである。もちろん、難易度としては、我が国の建築士制度を踏まえて、一級建築士受験のレベルを目標としている。
 多くの大学では、建築環境の科目は2年生ないし3年生で必修科目とされていることが多いだろう。まだ、ゼミ配属前であるし、意匠系、計画系を希望している学生も多い中で、必修で教えることの苦労を長年経験してきた立場から考えてみた。講義が始まると同時に、熱貫流率や換気量の計算を教えても、なぜ、建築を学ぶ中でそれが大切なのか、がピンと来ない学生、あるいは意義はわかるけど面白くない、という学生は、少なくない。学ぶ学生のモティべーションを高めるにはどうしたらいいのだろうか、と長年考えてきた。
 そこで、思いついたのが、設計演習で出題された課題のエスキスを考えるヒントが得られるような写真や図版をとっかかりにすることだった。2章? 6章の各章の冒頭は、「イラストと写真で学ぶ○○のデザイン」と題して、建築環境の知識・技術を直感的に伝えて、設計演習で出題された課題のエスキスを考えるヒント、造形のヒントにしてもらう努力をしてみた。形を考えることは設計・デザインの大きな部分を占めるが、その根拠として採光、日よけ、通風・換気、防風、遮音…のイメージを活かすことは、省エネルギー的であり、地球温暖化防止に有効であるし、その上で、美しい造形をめざしてほしいと思う。
 また1章は、類書の序論と比較すると、やや個性的なものになっている。これは、編著者のこだわりであるが、建築環境は、単なる技術学ではないので、学問のルーツについては、是非とも触れたかった。産業革命以後の、住宅・都市の劣悪な環境を改善する「正義の味方」のような活動が、建築環境分野のルーツなのだ、ということを知ることも、学ぶモティべーションを高めるだろう。また、R. バンハム(堀江悟郎訳)の『環境としての建築』には、この科目と近代建築史の接点とも言える話題が多いので、本書でも随所で引用をさせていただいた。
 本書が、4年生大学はもとより、短期大学、工業高等専門学校、専修学校等で建築を学ぶ学生のよきパートナーとなってくれることを期待したい。

松原斎樹