改訂版 イラストでわかる空調の技術


改訂にあたって


 建築物の構成要素として、一般的に「意匠」「構造」「設備」の三要素に大別されています。「意匠」「構造」に関しては、名称通り、「意匠」は建物のデザインであり、「構造」は建物の骨格に携わる分野ですが、「設備とは何か」はなかなか一言で言い表わせないものであります。ある辞書には、「建築物の機能を果たすために、建築物に備えつけられたもの」と解説され、建築基準法では「建築物に設ける電気、ガス、給水、排水、換気、暖房、冷房、消火、排煙もしくは汚物処理の設備又は煙突、昇降機もしくは避雷針」と記載しています。また、建築設備は「電気設備」「給排水衛生設備」「空気調和設備」「昇降機設備」「その他設備」と機能別に分類されてもいます。この本はその設備機能の一つである「空気調和設備」に関し、初心者の方にも理解しやすく表現した解説書であります。
 今回この本の改訂監修のお話をいただいた時は、建築設備を目指している方々へ何かお役に立つのであればと思い引き受けることに致しました。しかし、2011年3月11日に未曾有の被害をもたらした東日本大震災が発生し、大きな津波が次々と人・車・建物・農作物等を呑み込んでいく様子をメディア等で見た時、その脅威と虚しさと悲しみで強いショックを受け、少し時間をいただくこととなりました。わが国においては、このような自然災害がきわめて高い頻度で発生しています。とくに地震に関しては、1995年に阪神淡路大震災、2004年に新潟中越地震、そして2011年に発生した東日本大震災と大きな被害を伴った災害はいとまがないほどです。我々ができるその対策としては、設備機器等の耐震性能の向上と確実な施工が不可欠であると考えています。
 一方、地球環境負荷の低減に向けた取り組みが世界的規模で行われています。2005年に発効された「京都議定書」で約束したCO2をはじめとする温室効果ガスの1990年比6%減の約束期限である2012年が今来ているのです。建築分野の中では空気調和設備が、この温室効果ガスの削減に極めて大きく影響を及ぼしているといっても過言ではありません。
 建築に携わる建築士・設備エンジニア並びに建物を運営・メンテナンスをしている方々にとって、この空気調和設備の基本を知っておくことは、これからの社会に非常に重要で必要なことになってくると確信するものです。
 この本が出版され20年、法規制も大きく改訂され、各種の単位も国際基準に統一されてきました。また、新しい省エネルギーシステムも誕生し、新技術は日進月歩進化してきています。そこで、この20年を一つの区切りとして、法規制・単位の見直し・新しい設備等の加筆をポイントに改訂をしました。まだまだ、至らないところもあるかと思いますが、読者の方々の一助としてお役に立てれば幸いでございます。
 最後に、この「空気調和設備とは何か」をわかりやすく解説されている素晴らしい本を書かれた中井多喜雄先生、並びに魅力的なイラストを描いていただいた石田芳子先生に敬意を払うとともに、このたびの改訂を快く御承諾いただき進めることができました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
  2012年2月
田ノ畑好幸