図説 建築構法



はじめに

 この建築構法に関する教科書は、建築を学ぶ学生を主な対象として、建築物の躯体や仕上げ材を構成する材料、部品等の構成方法について具体的な事例を用いて解説している。「建築構法」という言葉は、建築を初めて学ぶ学生にとっては馴染みがないと思うが、「建築物の各部分の成方」と理解すると良いだろう。類似する建築用語に、建築工法という言葉があるが、「工法」は工事現場での施工方法を意味している。

 建築物は柱、梁、床、基礎などの構造躯体と外壁、屋根、床仕上げ、間仕切り壁、設備機器などとが一体となって構成されている。本書は主に現在、日本で建設されている建築物を対象に、建物の主体構法と各部分の構成方法を解説しているが、その対象は木造の戸建て住宅から、超高層建築、大規模なドーム建築など多種多様である。我が国は南北に長く自然環境の差も大きい。建築物が立地する場所によって、求められる断熱性能などが異なるため、外壁や屋根のつくり方、すなわち各部の構成方法も地域によって異なっている。建物用途によっても、たとえば音楽ホールは高い遮音性能が求められるなど、要求される性能も千差万別である。それぞれの建築物に求められる各部位の性能はいかにあるべきかを理解し、その要求性能に応じて、建築物として最も適切な構成方法を設計することが「建築構法」である。

 建築の仕事は新築工事だけではなく、既存建築の改修、増築、模様替え等の工事も多く存在している。歴史的な建造物の保存、活用の仕事もある。したがって、現在、一般的に用いられている建築物の構成方法だけでなく、これまでに使われてきた建築物の構成方法も一定程度、理解しておく必要がある。また海外で設計、施工の仕事に従事する機会も増えているが、海外では日本で一般的に用いられている建材、資材でも入手できないことや、品質が異なることがある。現場で働く技能者の人件費や技術力なども異なる。したがって海外で仕事をする場合は、日本で一般的に用いている構法をそのまま持ち込むのではなく、原点に立ち返って建築物の構成方法について検討することが必要になる。若い読者に期待したいことは、各プロジェクトに最も適切な設計や工事の方法が何かを考える力を身につけることである。本書はそれぞれの建築構法が採用されている背景や条件も含めて、読者が考える力を身につけることを期待している。そのような考える力を身につけていれば、建築に対する新しいニーズや特殊な立地条件、たとえば極地や高い山の上、ひいては宇宙や深海などに建築物を設計することも可能であるはずである。

 建築構法は、建築物の構造体、各部分の仕上げ、設備との取り合いなど、建築の構成方法を総合的に設計する分野である。建築の構成方法や建設手段は、時代とともに変化するため、本書では現在、実際に用いられている設計手法、建設方法に基づき記載をしている。我が国の建設業は高度な技術に支えられており、建築を学び始めたばかりの学生には少し難解な部分があるかもしれないが、学生の皆さんが社会に出て従事する仕事の実態であると理解して、取り組んでいただくことを期待する。

2018年9月
南 一誠