改訂版 実務から見たRC構造設計


まえがき

  RCは建築構造の根幹であり,RCなくして近代建築はありえない.このRCは半永久的な理想の建築構造と信じられてきたが,近年になって,耐久性が疑わしくなり,半永久的な人工岩石という「コンクリート神話」が崩壊しようとしている.もともとRCが100年もつという根拠はなかったのである.10年か20年の経験から推定していたに過ぎなかったのだ.
  しかしながら建物の耐久性調査報告によると,「設計」「施工」の良いRCは十分な耐久性があるという.したがって「RCの耐久性はわれわれ建築士の手に委ねられている」のである.われわれは身を引き締めて耐久性のある建築物を後世に残していかなければならない.
  実際にRCの構造設計を進めていくと,途中で解き方や仮定の方法あるいは施工方法等がわからなくなって苦しむことがしばしばある.そのつど,参考図書を手あたりしだいに調べてみるのだが,なかなか即答が見当たらない.理論的には種々の方法で解かれており,計算式も示されているが,難しすぎてその場の役には立たないのである.そればかりか,かえって混乱させられてしまう.そんなときの手引きとしてお役に立ちたいというのが本書の意図である.
  そのほかの本書の特徴は以下の5点である.

1. 構造設計の定石 : 実務経験から生み出された実務設計術をまとめたものである.
2. 実務図表 : 構造設計に必要な資料を使いやすい図表にまとめたものである.
3. 設計例 : 3,5階建程度の建物の実際の設計例をもとに作成し,計算手順の理解に役立てるとともに,設計参考資料としても役立つものとした.
4. 法令を網羅 : 関係する法令,告示,通達の要旨を掲載した.
5. 指針,規準を網羅 : 日本建築学会の規準・指針,日本建築センターの指針等の設計方法の要旨を網羅し,条件に応じ,採用すべき設計方法を示した.

  これらは,京都市において建築確認審査の構造担当となり,審査の途中でよく問題になっているような構造設計の方法,現実的な構造計算の解決策を多くの方々のご協力を得てまとめたものである.
  とりわけ格子梁については駒井正氏,複合基礎については畑中政治氏,階段については園孝裕氏,スラブ厚については細川義明氏のご協力をいただいた.記して感謝の意を表したい.
  また,本書は構造設計にたずさわる1万数千人の方々に実務の伴侶としていただいた『行政からみた建築構造設計』シリーズPARTU(褐囃z知識刊)を受け継ぐものであり,このような形で誕生させることができたのは,前シリーズが1981年の建築基準法令の改正にともない絶版になったあともいただいた多くの読者からの励ましのおかげである.
  本書をまとめるに当たっては,巻末に記した参考文献,先達の貴重な技術資料および大阪工業大学での設計演習を参考にさせていただいた.そして図の一本一本の線の太さの指定から始まり,気の遠くなるような編集を1年以上にわたって続け本書をまとめて下さったのは,学芸出版社の前田裕資氏である.
  これらの方々に改めて謝意を表したい.
   1991年3月24日

上野嘉久

  改訂版にあたって
  昭和51年の『行政からみた建築構造設計』シリーズの誕生から32年,平成3年に『実務から見たRC構造設計』が出版されて以降,平成12年にはSI単位による建築基準法令の改正,また平成17年には構造計算書偽装事件が発覚し,生命に係わる構造設計の重要性が認識され,19年に構造計算関係法令の改正が行われた.
  ここに,読者の御支援により本書も全面改訂することとなった.
  労多き実務書の改訂・編集は,森國洋行氏・村角洋一氏によるもので,三人で本書は誕生した.
  実務者座右の書として末永く活用されることを祈願します.
   2008年12月

上野嘉久