改訂版 構造計算書で学ぶ鉄筋コンクリート構造

まえがき

 中低層の建物はもちろん、平家建から超高層まで、近代建築はRC(鉄筋コンクリート構造)なくしては存在しない。したがって、建築を志す者はRCの基礎知識の習得が不可欠である。本書は、実務に照らして構造設計を行いながら、頭だけでなく五体で学ぼうとするものである。一般的な建物を構造設計するには、中学校で習う程度の数学で充分であり、「習うより慣れろ」が鉄則である。当書は『構造計算書で学ぶ鉄骨構造』の姉妹本であり、まずRCから学び鉄骨造へと進めるのが常道である。
 本書の特徴は下記のとおりである。

1. 課題を解き、構造計算書にまとめ上げながら鉄筋コンクリート構造を学ぶ。
2. 新耐震設計のルート別の課題に沿って学ぶ。
3. 「構造計算書シート」「構造基準図」による実践的構造設計なので実務にすぐ活かせる。
4. 「構造力学」「建築構法」「法規」「設計製図」等の関連を知り、総括的に学べる充実した解説。
5. 大学、専門学校などのテキストとして、また、すでに基本を学習した初心者のための研修、自習のテキストに最適。

 このように本書では、講義だけでなく構造設計演習を行い、構造設計図書を完成させる目標をもって学習する。講義中は静粛にしなければならないが、演習時は学生同士で教えたり教えられたりしながら進めればよい。
 コンピュータは計算はできるが、構造設計はできない。構造設計は実践との応答にて会得できるものであり、まずは手計算で基礎知識を学んで、コンピュータを使うのが構造設計者への王道である。
 昭和56年「新耐震設計法」施行後、構造計算を行う建築士が少なくなり、構造設計は専門の建築士が行うようになりつつある。本書を見ればわかるように、層間変形角、剛性率、偏心率および耐震基準等の計算が増えた程度であり、中小規模の建物は手計算で充分可能である。兵庫県南部地震では、RC造も多くの被害を出した。その原因の1つは、技術者の知識不足であった。耐久性のあるRCを後世に残していくためには、1人でも多くの建築士が構造設計の基礎的な知識を体得し、実際に構造設計に関与することが望ましい。
 本書は月刊雑誌『建築知識』に連載した「実践からみた建築構造計算入門」をもとに、筆者が専門学校での教育実績をふまえてテキストに発展させたものである。
 CADによる作図は大阪工業大学の戸出昭彦君が、編集の労は宮本裕美さんである。
 有形無形のご協力を下さいました方々に心よりお礼申し上げます。
 建築構造の根幹であるRCの基礎知識の普及に役立つことを願います。

  1997年9月5日

上野嘉久


 改訂版にあたって
 平成9年に誕生して10年、多くの方々に御活用いただいた。
 平成12年にはSI単位による建築基準法令の改正、また平成17年には構造計算書偽装事件が発覚し、生命に係わる構造設計の重要性が認識され、19年に構造計算関連法が改正された。
 そこで、最新の法令・告示、学会基準に基づき全面改訂を行った。
 労多き実務書の改訂・編集は、森國洋行氏、村角洋一氏によるもので、三人で本書は誕生した。
 構造計算の入門書として活用されますことを念じます。

  2007年9月
上野嘉久