書 評

『地方自治職員研修』(公職研) 2003. 11
住まい続けることの面白さと重さ
 いまや約350軒を数える重要文化財民家は歴史的・芸術的価値で私たちを魅了するとともに、多くの問題を抱えている。建築以来少なくとも100年、中には300年を数える重文民家はその間の生活の記憶を宿し地域文化を体現するものであるが、と同時に、建物の老朽化とともに現代生活を送る上では不都合が多く、維持保存の上で問題となってきている。重文民家の個人所有者による本書は、全国50軒以上の重文民家を取り上げ、その特徴・魅力や、保存・活用の試みが紹介されている。

『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2003. 10
 昭和12年に第一号が国宝(現重要文化財)に指定されて以来、現在日本中に点在する重要文化財民家は三百戸を超えるまで増えています。
 重文民家の個人所有者が昭和52年に、会員民家の保存・維持に関する情報連絡と会員相互の親睦・研修を図ることを目的として「全国重文民家の集い」が結成され、四半世紀が経過しました。
 本書は重文民家の歩みと、個人所有者の重文民家への素直な思いを取りまとめているが、全体的にオブラートに包まれているので、物足りなさが残るのは、いか仕方ないのだろうか。もっと切実な思いが所有者の方々にはあると思われます。所有者それぞれが抱えている問題は(1)相続税、(2)後継者の問題、(3)指定家屋に住んでいるため受けるストレス、(4)保存維持のためのメンテナンス、(5)財政的な問題等、多岐にわたります。所有者にとって、重文民家に指定されることが、その後の生活に計り知れない苦痛や、財政的負担が伴う状況は見過ごすことはできません。
 重文民家はそれぞれなんらかの形で歴史につながり、その足跡を伝えつつ現代に息づき、更に未来に向けては歴史を体現した存在ともなり得るほど逞しい生命力をもっています。また、各民家の存在やそれぞれの歴史が、町や地域の中へ広がってゆくことを考えると、文化財としてだけの重文民家ではなく、地域経済の振興や、地域・町の歴史、自然環境をどう守るかが重要です。「社会資本を支える民家を失っては、二十一世紀のわれわれの暮らしはない」という提言は納得できるものです。巻末には、見学マナーや都道府県別重文民家一覧が集録されています。
 今一度、重文民家にふれ、地域での位置付けを考える方々にお勧めできる一冊です。

(吉木隆)

『CONFORT』(建築資料研究社) 2003. 8
住み手たちが綴る歴史ある民家への想い
 日本中に点在する、国から指定された重要文化財民家(重文民家)は、昭和12年の第1号から現在では約350戸にまで増えている。重文民家に住む人たちが結成した「全国重文民家の集い」が編著した本書には、住み手たちの底流にある、趣きある佇まいと豊かな文化を愛しむ心が表れている。また、文化財に指定された瞬間の複雑な想い、現代社会における保存と活用を巡っての苦悩など、指定制度がもたらす負の面も描き出している。

『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2003. 7
 「全国重文民家の集い」という団体をご存知だろうか。全国で300戸を超える国指定重要文化財民家の所有者が、民家の保存・維持に関する情報交換と連携をはかるために結成された全国組織の非営利団体だという。メンバーのほとんどが個人所有者で、重文民家に居住している人も少なくない。本書は、歴史的、文化的に価値のある各地の重文民家の魅力を紹介するとともに、保存・維持・管理の現実と、継承していくことの困難さも浮き彫りにしている。
 かつての文化財指定は失われゆく貴重な建造物の保護が目的であり、建築当初の様式に復原されることが多かった。そのため研究や観賞の対象となっても居住には適さず、多くの民家が公的管理のもと展示物となっていった。愛着のある我が家が、重文に指定されたその日から公共の財産となる。名誉なことだが、所有者のとまどいははかり知れない。先祖から受け継いだ伝統と暮らしを守ることに誇りと使命感を持ちながらも、プライベートな空間を公開することは、居住者にとって多大なストレスであるはずだ。多くの所有者が生活空間を別棟にしていることもうなずける。重文民家を継承しつづけるうえでの問題は、相続税、後継者問題、居住者のストレス、建物のメンテナンスとその経費負担など。このような問題をクリアする方法として、公益法人化する例も増えているようだ。しかし所有者にとっては、我が家が自分たちの手から離れる寂しい選択でもある。
 現在では文化財も、単なる保存にとどまらない「活用」が期待されている。重文指定されるような民家は、その土地固有の伝統的生活文化を伝えるものであり、地域おこしの拠点として位置づけられることも多い。まちなみ保存運動の高まりなどともあいまって、風景としての保存・継承にも注目が集まっている。住み続けることが最大の活用だというが、住み手にとっては大変なことだ。やはり地域の財産として市民の手で守り、伝えることが求められていると切実に思う。

(晃)

『室内』((株)工作社) 2003. 7
 「重文民家」とは、重要文化財民家のこと。現在、わが国には、332件688棟の重文民家がある。そのうち、公が監理するもの以外で、住居として、指定家屋に暮す例は66件、管理棟と呼ばれる別棟に住む例が26件、指定家屋と別棟を併用して住む例が22件、居住以外に利用する例が8件ある。指定家屋と遠く離れて住む例は、14件だという。先祖代々受け継がれてきた家を、それぞれの時代の生活に合わせて適応できるように改造しながら、住み続ける人が多い、と一言で言い切ってしまうことはできない。なぜなら、重文民家に暮すことは、個人で所有する人々にとって、住まいを愛しながらも、多大なる苦労も同時に伴うからだ。
 古くなった民家の修理や補繕は、国や地方自治体からの補助金が出るが全額ではなく、約1割は、個人が負担することになる。また、見学者に住まいを公開することで、常に生活が人目に晒されてしまう。普通の家に暮す私達には、想像もできない努力と苦労が、本書に綴られている。その努力があるからこそ、日本の歴史、文化遺産が生き続けているのだと、本書に掲載された民家の写真の数々をみて、改めて感じ入った。

『學鐙』(丸善(株)) 2003. 7
 その地域でもっとも古いもの、間取りや構造が典型的で地域の特色をよく示すもの、意匠や規模が地域文化の代表となるものなど、重要文化財民家(重文民家)は平成13年現在で332件688棟が指定されている。本書は、民家の個人所有者たちが結成した「全国重文民家の集い」が開催したシンポジウムと機関紙をもとに編まれた。保存・活用をめぐるさまざまな問題、プライバシーの確保など、重文民家のあゆみとともに所有者の率直な声を伝える。

『新建築住宅特集』((株)新建築社) 2003. 7
 日本の経済成長や社会状況の変化に伴い、重要文化財民家(重文民家)を取り巻く環境も変わってきたという。個人所有者の多くが世代交代するなか、社会が重文民家を見る目が変わり、「所有者だけのものではなく、社会全体のものであるという意識」が生じると共に、社会と所有者との間に認識のずれが生じはじめているという。1937年に「吉村家住宅主屋」が第1号として重文民家に指定され、全国で約350軒。それぞれに地域の歴史や風土のなかで継続されてきた人びとの暮らしが刻まれている。本書はそうした重文民家の歩みと所有者の率直な思いがまとめられている。維持保存・活用を前提としながら、新しい文化財の模索がつづいている。