小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まいをつくる
エネルギー半減をめざす1985アクション

はじめに

 東日本大震災に伴う福島原発事故によって、私たちの暮らしには「エネルギー」が深く関わっていることを改めて認識させられました。私は、どう考えても原発に頼らない社会をつくるべきだと考え、この国で暮らすすべての人が直接関わることができる取り組みとして始めたのが「Forward to 1985 energy life」という活動です。この活動は、我慢によるものではなく、賢く、楽しく家庭でのエネルギー消費量を減らすことを目指すものです。
 Forward to 1985 energy life の「1985」とは、1985 年頃という意味です。
 この当時、日本の家庭での電力消費量は現在のおよそ半分でした。いまよりも相当少ないエネルギーで毎日を暮らしていたわけです。そして1986 年頃から“バブル”が始まり、エネルギー消費量もどんどん増えていきました。
 私はそのとき25 歳。思い出せば、スマートフォンなんかはありませ
んでしたが、とくに不便を感じることなく、楽しく毎日を暮らしていました。家庭の電力消費量が半分だったなんて不思議です。実際には、家電の保有台数が増えたことや、世帯数が増えて世帯人数が減ったことが「電力消費量2 倍」になった理由と考えられますが、1985 年頃のエネルギーでの暮らし(1985 energy life)に近づけていくことに大きな無理があるとは思えません。
 Forward to 1985 energy life の「Forward to」とは「前に進んでいく」という意味です。あえてBack to 1985 energy life としなかったのは、単純に「戻る」ではなく、1985 年頃からいままでに進化した省エネの技術や知恵を活用し、前向きな気持ちで家庭の省エネを進めていきたいと考えたからです。ネタばらしをすれば、1985 年という年を調べていると、この年に「Back to the Future」という映画が封切られたことがわかり、このタイトルの“逆パクリ”を思いついてForward to 1985 energylife としたのです。「未来に戻る」の逆の「過去に進む」というわけです。
 私は2000 年頃から家庭の省エネに関心を持ち、とくに住まいのあり方によって省エネにつながる様々な技術について調べ、そこで得られた情報を、家づくりのプロや家づくりを考えている一般生活者に向けて伝えてきました。
 そうやって勉強する中で「現在の半分程度だった1985 年頃のエネルギー消費量で、快適・健康的に暮らせる住まい」を実現させることは難しくないことがわかっていました。先ほど「1985 年頃のエネルギーでの暮らし(1985 energy life)に近づけていくことに大きな無理があるとは思えません」と書きましたが、それには具体的な根拠があったのです。
 2011 年から始めたこの活動も全国的な広がりを見せ、着実に「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」は増えてきています。本書では、まずは「エネルギーを巡る状況と家庭での省エネを進めていく意義」について述べ、その次にForward to 1985 energy life という活動を始めた経緯と活動内容をご紹介し、最後に「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」の具体的な話をしています。みなさんの興味に応じて、途中から読み始めていただいても構いません。
 本書がますます「小さなエネルギーで豊かに暮らせる住まい」を増やすことにつながれば幸いです。

2018 年4 月
一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事
野池政宏