海外でデザインを仕事にする

世界の果てまで広がるフィールド


まえがき



 本書は、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカの10カ国を拠点に活動するデザイナー14名が、自らの体験を綴った本である。日本を飛び出し、海外で仕事を獲得し、キャリアを積み重ねながら独自の働き方を見出していく過程は、現在進行中のビビッドなものばかり。読んでいると、彼らと一緒にデザインの広い世界を探検しているような気持ちになる。
 これから海外に出ようとする人たちにとっては、14人がそれぞれに異なるロールモデルとなるだろう。留学先の選定からインターンシップの仕組み、ビザの取得や、給与水準、住宅事情や生活費など、他では得にくい有用な情報が豊富である。仕事の具体的な進め方や同僚たちとのコミュニケーションなども、読んでいて学びが多い。自力で道を切り開いている者たちらしい爽やかで熱気に満ちた文章も、読む者を駆り立てるに違いない。
 「デザイン」の仕事の範囲はこの20年で加速度的に拡張した。20世紀には形あるものに止まっていたデザインの対象が、無形のあらゆる「こと」にまで大きく広がった。今やデザイナーは、モノをデザインしているように見えても、実際にはそのモノもひとつの要素に過ぎないサービスやビジネスをつくっているか、あるいはモノが媒介するある種の物語を紡いでいるのであり、そうでなければ、職能の価値を社会に訴求することができない。そのために、デザイナーは旧来のスキルに加え、経営学や工学、民俗学といった分野の知識や技術を駆使しなければならない。造形的なスキル教育を中心にしてきたデザインの教育機関はどこでも、限られた時間で現在のデザインに必要な広範な能力を養う方法を模索している。
 本書に寄稿した14名は、このような時代に、デザイナーの新しい職能を模索する過程にある。彼らの多くが学校で学んだ分野とは異なる領域で活動しているのはそのためだ。建築を学びながら今はテキスタイルをデザインしている者や、美術史とプロダクトデザインを学んだあとグラフィックのデザインスタジオに飛び込んだ者。プロダクトデザイナーになるためにあえて大学で建築学科に進んだ者もいる。海外に出たタイミングはそれぞれだが、一度就いた仕事を中断してでも、その都度必要な技術を学びなおすことに前向きな点は皆共通している。彼らは国境を越えると同時に分野の境界も越えることで、身をもってデザインの仕事を現代にふさわしいかたちに再構築しているのだ。
 ミラノのスター・デザイナーのアトリエから、世界一大きなデザイン会社のボストン・オフィス、果てはアフリカのファブラボまで、働く場所と内容の大きな振れ幅が、本書の特徴である。それらをひとつの職能に括ってしまうにはあまりにも多様なのだが、それでもやはり全てデザインの仕事と呼べるのだとしたら、私たちは「デザイン」を、今どのように定義できるだろうか。この本から、読者それぞれが答えを見出してくれたら嬉しい。

2016年11月 岡田栄造