海外でデザインを仕事にする

世界の果てまで広がるフィールド


あとがき



 私の海外経験は、20代のころに語学留学を兼ねてロンドンに4カ月ほど滞在しただけ。海外で働くことに憧れはあったものの、実現する行動力がなかった。本書の編者を引き受けるべきか自問したが、むしろ、日本を飛び出ることを逡巡しているかもしれない読者の気持ちがわかると開き直った。若い時の自分を、いや今の自分をも海外に駆り立てる本にしようと考えたわけである。
 かつて、デザインの仕事を海外で得るにはヨーロッパかアメリカに行くのが一般的だったと思う。新興国に渡るにしても、キャッチアップの途上にある産業に対してデザインの技術を提供する意味合いが強かった。10年ほど前から、途上国の人々が抱えるさまざまな課題を解決する手段としてデザインが認識されはじめた。現在では、先進国の後追いではない成長の方法を地域の人々と共に試行することが、デザイナーの役割になりつつある。
 本書を企画するにあたっても、デザインの役割が大きく変化する今の状況を反映すべきことは明らかだった。そのため、できるだけ多くの地域で、それぞれに異なる役割を得ているデザイナーに参加してもらう必要があった。執筆者の選定にあたっては、私が持っていた情報とネットワークではとうてい追いつかず、何人かの方に候補者の推薦をお願いした。中でも慶應義塾大学准教授の水野大二郎氏には、本書に参加した複数の執筆者を紹介いただいた。
 デザイナーが専門誌や書籍に寄稿する機会は、建築家に比べると圧倒的に少ない。ほとんどがB to Bの仕事であり、守秘義務等の問題から情報公開に気を使わざるをえない職能の性格によるところが大きく、またデザイン分野のメディアが貧弱であることも問題である。執筆を依頼するにあたっては、デザイナーたち自身が言葉で語る動機をあまり持たないのではないかという不安があった。しかしながら、本書への参加を依頼するや、全ての方が書籍の趣旨に大いに賛同くださり、寄稿を了承くださった。そして、どの執筆者も忙しい中、こちらが設定した締め切りどおりに、当初から本当に生き生きとした、臨場感のある文章をお寄せくださった。これは良い本になる、という確信を持つと同時に、デザイナーには書く機会が与えられていないだけだということも、よくわかった。
 海外での貴重な体験を本書のために共有くださった執筆者の方々、素晴らしい執筆者を推薦くださった方々、姉妹編『海外で建築を仕事にする』の企画・編集者で、デザイン版をつくりたいという私の願いを形にしてくださった学芸出版社の井口夏実編集室長、専門的で冗長になりがちな原稿を、粘り強く丁寧に執筆者とやりとりしながら、わかりやすく読み応えのある本に仕上げてくださった編集担当の岩切江津子氏、松本優真氏に、心より感謝の気持ちを捧げたい。

2016年11月 岡田栄造