まえがき

──Towards Terra Incognita (見果てぬ土地へ)

 本書は、世界12カ国・15都市で、建築・都市・ランドスケープという果てしないフィールドをデザインする仕事に挑戦している日本人16名のストーリーを集めたものである。

 著者たちのなかには、銀行マンから建築へ転向した人もいれば、パブリックアートからコミュニティデザイン、建築からランドスケープ、そして都市デザインへと皆、活動領域を拡げている。いずれも人生の流れの中で自ら決断し、海外の見果てぬ土地へ飛び出し、その地域での生活や働き方を模索してきた道筋、場所、人間関係を描いている。

 都市・ランドスケープのデザインは、庭や、公園・緑地などのパブリックスペース、街区規模の都市デザインなど、オープンなシステムのデザインである。そこでは、土地の地形や植生、水の流れ、道や建物の配置から、そこでの人の在り方まで、時間の流れの中で変化する生きた媒体に向き合う。それこそが、この仕事の醍醐味だ。

 これからの不確実な未来を考える上で求められるのは、新しいタイプのプロフェッショナルだ。想像力が豊かで、領域を超えた生態的な思考力、プロセスや時間に伴う変化をデザインに取りこむ調律力が必要とされている。

 ではどのように、そんなプロフェッショナルに近づくことができるのだろうか?

 そのヒントとして、本書では、刻々と世界中で起きている変化に向き合う著者たちの経験を、現場からの話を中心に綴ってもらった。彼らが、いつ、どこで、何に、どのように向き合ったのか? ホテル・ロビーの石庭から、ロンドンのオリンピック公園、バルセロナの交通システム、そしてマンハッタンの屋上で展開される都市生態学の実験まで、彼らの経験を通して描写される世界から、都市・ランドスケープの仕事の面白さや可能性が伝わってくるはずだ。

 また、本書で紹介するのは、日本という島国から飛び出し、海外で武者修行をして戻ってきたという定番の話ではない。16名のうち、帰国したのは6名、残りは今も海外で奮闘中、現在進行中のストーリーである。

 Terra Incognita(見果てぬ土地)という言葉がある。まだ人に知られず開拓されていない土地、見果てぬ場所に向けて人生を旅する著者たちの体験から刺激を受けて、新たな一歩を踏み出すきっかけにして頂ければ著者一同、望外の喜びである。


2015年8月 福岡孝則