町家再生の技と知恵

書 評

 
『民家』(日本民家再生リサイクル協会) 2002.9
 民家のなかでも独自の歴史と様式を確立してきた京町家の改修工事に役立つ施工マニュアルが、京町家作事組の手でまとめられた。
 民家がわれわれ日本人の生活文化にとって価値あるもの、かけがえのないものとして再確認されはじめてから、まだ間もない。
 建築関係の法律や規則では、民家や町家に関するものは無視され、明治以来の西洋化への追従は今も変わっていない。学校教育面でも、建築科の学習内容さえ、伝統的な民家を取り上げることはあまりなく、コンクリートや鉄骨の勉強が主流である。大量消費時代を経て、「循環型社会への移行」が言われ、ようやく「民家再生」が注目されるようになってきた。
 こうした流れのなかで、「京町家作事組」は一九九九年四月、京都で伝統建築を手がけてきた選りすぐりの職人たちによって結成され、伝統技術の維持、町家の保全・再生の活動を展開している。
 本書は、京町家の定義、歴史観、特性についても記述しており、町の風俗や生活習慣と一体化している形態・様式も理解できる点で単なるハウツーものではない。
 工事手順から建築各部の技法にいたるまでほとんどが図解してあり、分かりやすい。また、改修の実例を四件取り上げており、理解が深まる。
 京町家には、坪庭に打ち水して涼風を呼び、また季節に合わせて建具を入れ替えるなど、何世代にもわたって伝えられてきた生活の知恵がいっぱい詰まっている。
 本書によって京町家が理解され、日常の生活を安心して営める器として大切にされることを願い、「京町家作事組」のみなさんの末長い活動を期待したい。
(奈良県・正会員 大森 亘)
 

『室内』(轄H作社) 2002.7
 京町家を改修し、守っていくための施工の手引きである。編著は、京町家を改修し、保全、再生する、つくり手の専門家集団「京町家作事組」である。
 京町家が建てられなくなってから、既に65年たつ。いま残る大工たちは、町家を新築したことがなく、若いころ親方から聞きかじったことも断片的である。それに、現代の法律や規制を守りつつ、町家を改修していくためには、乗り越えるのが困難な壁がいくつもある。
 本書は、諸職が作り手として京町家を観察し、当時の作り方を推測、研究を重ねて、京町家ができるまでを図解したもの。町家の歴史や特徴にふれるだけでなく、作り手の観点からまとめてある。
 

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