町家再生の技と知恵

読者の感想から

 
 戦後の日本社会は過去の歴史を否定し、断絶するエネルギーをバネにして築かれて来ました。
 RCの建物で100年、木造で50年と思って仕事をしてきましたが、この頃は30年もすると建て替えの話が出て来ます。およそ一世代ごとに建物をつくり替えることになります。RCの建物です。
 建物の寿命が物理的な耐用と機能的・社会的陳腐化の両面から決められる星のもとにあるのは認めますが、多くの建物がお伊勢様並みに建て替えされて疑問を感じないような時代の感覚にはついていけないものを感じています。それほどまでにこの国が豊かであるとは私には思えませんし。
 なにかが狂っている様に思えてなりません。伝統継承の理念を否定して出発した戦後文化がいき塞ったのだろうと思います。
 人の生活は親−子−孫と続く連続性と同時代人相互をつなぐ横の連続性との交点に成立しています。どちらに偏ってもバランスは崩れますが、戦後の日本は連帯の意識はあったけど、連続性の意識はとても弱かったのではないかと思います。相続や税制等の社会制度もタテに継げにくい構造になっていると思います。
 日本文化の歴史の特性は初源を直感的に繰り返すところにあると言われています。戦後史は日本史全体のごく一部を形成するに過ぎませんし、一人一人の人間にとっては自分の生涯だけが唯一つの歴史です。歴史の舞台は新しい世代によって幕が開けられると思っています。
 昨年9-11事件がありました。赤い炎と黒煙を吹き上げながら姿を消していったWTCビルのTV映像は実に印象、鮮烈でした。巨大な負荷を負った不気味な痛快感が自分の中を走り抜けていったのをよく覚えています。
 京の町家の保存・再生の仕事は9-11事件と正反対のベクトルを持った新しい世界の構築に手をさしのべる建設的な営為の一つなのではないかと思います。
 伝統拒否をスタートとして成立してきた戦後の社会制度が存続する中で、困難の多い仕事かと思いますが、時代の環境は間違いなく方向転換の渦中にあると思ってます。
 「技と知恵」が連続と連帯を紡ぐ貴重な役割を果たすのではないでしょうか。
矢向敏郎 建築家、70才


この企画の最初の頃、ローマ市作成の歴史的建造物修復マニュアル(『にぎわいを呼ぶイタリアのまちづくり』73、107頁に一部収録)を使って、イタリア的マニュアル作りをお話しました。その後、皆さんのご努力の積み重ねと実践があって、今回の出版になったわけですが、結果として、たいへん似た様な形になったと思っています。特に、イラストの描き方に修復を手がける職人さん、建築家の視点が浮き上がっていて、一つ一つの部材が生き生きとしています。数多くの部材を通じて、昔の職人さんとの対話を続ける日伊の修復建築家の精神が感じられる労作です。
宗田好史(京都府立大学助教授、都市計画、イタリア都市研究)


いい本ができたと喜んでいます。毎日の経験が生きた、実際的で読み応えがあります。大学院のテキストにしようと考えています。
波多野 純(日本工業大学)


編集者の技と知恵が良くうかがえる、私の予想を遥かに越えるすばらしい本です。実践者に向けてはいますが、社会の動きを研究している建築素人の私にもわかりやすい様に、京町家の機能と工法が説明されています。町家の略歴も非常に役に立ちます。作事組はこれで町家再生に大きく貢献して下さいました。おめでとうございます。
クリストフ・ブルマン(文化人類学者、京都の都市研究、ケルン大学講師)

メインページ