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ハウツーものというのは通常、相当期間の研究や活動の成果を世に問うかたちで上梓されるものであろう。ところがこのテキストは全く逆で、京町家の保全・再生の実践を標榜して、活動をスタートしてから、必要に迫られてまとめたものであり、いわば泥縄である。
しかしその分、「ここをどうやって直したらよいのか」といった具体的な疑問には答えられると思っている。 もともと体得するしかない手技を文章や図で表すのは限界がある。さらに職方の話を聞き手の設計者や研究者がまとめるという作業も困難であった。職方にすれば何でこんなことが判らないのかということになるし、聞き手はもっと判るように話してくれ、ということになる。図面や知識で作り方を理解してきた設計者等にとっては確信を持てず、不安ともどかしさを抱えながらの作業になった。 編集作業は京町家作事組の理事のなかから自主的に参加し、後に固定化したメンバーと建築史家として京都工芸繊維大学の矢ヶ崎善太郎助教授と木造建築の設計で実績のある稻上文子さんを加えた編集委員会を中心にして、骨格をまとめ、各工程については該当する職方に参加してもらった。結果的に、作事組会員のほぼ全員が関わった。作業はそれぞれの本業と京町家再生活動の合間を縫って行われたため、行事のない日・祭日を使っての編集会議となり、この1年余は休日返上であった。また野村彰さんには第2章の説得力のあるイラストで、花岡健さんには同じ第2章の基本設計図でお世話になった。また第2章のアイソメ図は京都工芸繊維大学学生の工藤誠巳さんにパソコンを駆使して描いていただいた。分担執筆の常で、担当者間の調整では学芸出版社の知念靖広氏に大変な苦労をおかけしたが、持ち前の鷹揚さで、ねばり強くまとめていただいた。 もとよりこのテキストで、改修の技が会得できるものではなく、繰り返し手入れを手がけ、工夫を重ねることによって、初めて京町家改修の「技と知恵」が再生できる。このテキストがそのきっかけとなり、工夫のヒントになることを仲間たちと願う。
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梶山秀一郎 | |
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