建築デザイン製図


まえがき

 建築設計製図に関する解説書は多種多様に出版されているなかで、新たに本書を企画した動機は「創造的な空間デザインの図面表現」を主眼に置いた製図テキストを手掛けたいという想いにあります。
 企画から実施設計、施工に至るまで、実務ではさまざまな段階の建築意匠に関わる図面があります。そのなかで本書が対象とするのは、設計者がデザインした空間をより効果的に建築主にプレゼンテーションするための「企画段階の図面」です。これは大学や専門学校で学ぶ学生からみれば、創造的能力を養成する設計演習の際に必ず要求される基本図面でもあります。
 ここで解説する図面表現のテクニックやその題材は、初学者向けでありながらも十分に実務のレベルで通用するものであることを意識しました。そのうえで、デザインした空間をプレゼンテーションするための実践的ノウハウを効率的に学習できるよう工夫したものです。具体的な特徴は以下の通りです。

  1. 時代に即した現実的な設計として一般に通用する内容で、かつデザイン的にも魅力あるモデルプランを企画して製図の題材とする
  2. 建築の表現方法は多様であるが、使用する線種や開口表現を意図的に厳選することでより平易な理解に努める
  3. 意匠設計において最も基本とされる1/100のスケールで、平・立・断面図の原寸表示での手順解説を行う
  4. 製図におけるプレゼンテーションを重視し、影や点景の表現、ダイアグラム、図面レイアウト等についての詳しい解説を加える
  5. アイソメやパース等の立体表現、模型のテクニックに至るまで、基本図面以外のプレゼンテーションについても網羅する
  6. できあがった図面を、自分自身あるいは教員が客観的に評価するためのルーブリック評価シートを付属して、道理にかなった効率的学習を支援する

 建築設計は、多くの複雑な要素を統合しながらデザインとしてまとめ上げる、創造的かつ魅力的な行為です。本書が、そんなものづくりの道を目指す方々の興味を引き付け、学習の手助けとなることを願う次第です。最後に、本書の企画段階から適切なご助言とご尽力をいただきました、学芸出版社の岩切江津子氏に心よりお礼申し上げます。