リノベーションの教科書

企画・デザイン・プロジェクト

はじめに
 本書は、建築からまちや地域までのリノベーションについて、その考え方の基本的枠組みから企画や設計の具体的方法までを、多くの事例を通して実践的に説き起こしたものである。
 高齢化や人口減少が大きな問題として認識されるようになるにつれ、既存の建物や空間を活かすリノベーションという方法が注目されるようになってきた。そして関連書籍の出版も増えたが、その多くは、国内外の先進的事例の紹介や、それらの背後にある社会的・経済的・建築生産的問題の分析であり、しかも、リノベーションの対象の種類ごとに別の書籍としてまとめられる傾向もあった。
 そこで本書では、理論と実践という座標軸、および建築からまちや地域までという座標軸をクロスさせ、さらにそこへ、新築から改修までを時間軸上で連続的に捉える視点を加えることで、リノベーションという方法の全体像を立体的に浮かび上がらせようと考えた。
 この方針に基づき、本書は3部から構成されている。第1部「リノベーションの考え方」では、リノベーションという方法の論理的な成り立ちや、それを企画し実践するための基礎的な知識を整理した。第2部「再生時代の計画学」では、住宅、学校、オフィスビルといったさまざまなビルディングタイプの建築から、まちや地域までのリノベーションの仕組みを、多くの具体的な事例を通して分析した。第3部「リノベーションを実践しよう」では、さらに具体的に、リノベーションを実践する際のノウハウを、調査、計画、設計、現場、運営といったステップごとに詳述した。
 6人の執筆者は3つの大学の教員であり、しかも建築計画や建築史の研究、そして具体的なプロジェクトの実践を通して、多くのリノベーションに携わってきたメンバーである。本書でも、それぞれが実際に関わった事例をたっぷりと紹介した。したがって、読者の皆さんには、あたかもそれらの現場にいるかのような臨場感も味わっていただけるに違いない。
 本書は「教科書」と銘打っているように、まずはさまざまな教育機関での講義や実習のテキストとして使っていただき、リノベーションへの関心を若い世代に浸透させる一助となることをねらっている。さらに本書は、1冊の読み物としても機能するはずで、具体的なリノベーションのプロジェクトに関わる機会のある学生諸君には、それを推進するための参考書として使ってほしい。そして、すでに実務に携わっている方々にとっては、日々の実践の意味を見直し、その位置づけを確認するための手がかりとなれば望外の喜びである。

2018年3月吉日
著者一同