設計に活かす建築計画


はじめに


 この本は、日本建築学会東海支部の設計計画委員会への参加をとおしてつながりのできた若手研究者が中心になって作った建築計画の教科書である。

 「建築計画学」という分野は日本建築学会ではオーソライズされてはいるが、確とした英訳語は存在しない。従って外国にはない、日本固有の研究分野であるといってもよい。西洋建築の導入過程で生まれた、整理・集約して効率よく学ぶための研究分野であり、具体的な建築物の設計に必要不可欠なものとしてスタートしている。その後、独自の発展過程を経て「建築計画学」という確固たる学問分野に成長するが、それと同時に、本来の設計に役立たせることへのこだわりは薄れ、今日に至っている。

 著者たちは、この「建築計画学」の研究者である。しかし、建築が好きで、この地球上にすばらしい建築が沢山できることを夢見る若い心を持ち続けている。ほぼ全員が建築設計の実務を手がけ、作品を世に出している。そして研究を研究者だけのものに留めず、設計に役立てて欲しいと思っている。

 建築を目指す学生諸君に、まずこのことを伝えたいという情熱が、本書「設計に活かす建築計画」の生まれるきっかけとなった。従って、本書は建築を志す初学者、特に建築の設計・デザインに強い関心を持ち、将来、具体的な建築の設計に携わろうとしている方を読者として想定した教科書となっている。もちろん「建築計画学」の研究者になろうとしている方やすでに実務についている方も対象にしており、過去よりも、現在と未来を見据えた建築設計実務経験者ならではの視点と表現、研究者としてのそれも随所に盛り込み、これらの方々に対しても十分示唆に富んだ内容となるよう工夫している。加えて、第3章では最新の「建築計画学」の成果と情報をわかりやすく解説している。

 多分に斬新な試みを含んでおり、意気込み先行のきらいはあるが精一杯の努力はしたつもりである。後は、読者諸君にすばらしい建築をつくって欲しいと思っている。そして、本書がそのお役に立てることを願っている。

 なお、本書の企画は編者全員の合議の上決定したが、編集作業の主な役割分担は、全体:藤田、第1章:日色、第2章:内藤、第3章:本となっている。特に、藤田、本両氏には、多く尽力いただいたことを付記しておきたい。また、学芸出版社の知念靖広氏の適切なアドバイスと指導によって本書が上梓できたことに謝意を表したい。

 2010年3月
内藤 和彦 

本書の使い方


 建築作品に関する言説では、コンセプトやデザインとそのプロセスへの関心が高く、建築計画の内容があまり評価されていないと感じられます。むしろ、建築計画の知見を「設計をつまらなくさせる」ものと捉え、あえて参考にしないスタンスも見られます。これは、これまでの建築計画について書かれた書籍が、学問として積み上げてきた知見を重視して、「どうすれば設計に活かすことができるか」についてあまり語っていなかったことも一因と思われます。本書はそのような問題意識を背景として、建築計画で学ぶべき広い範囲の中から設計課題に活かすことができる内容を厳選して盛り込みました。

 第1章は建築計画を学ぶ上で知っておいて欲しい内容として、社会における建築計画の役割、専門家としての姿、実際の計画と設計の流れについて書かれています。第2章では住宅、学校、オフィスビルなどの基本的な各種建築の計画、様々な建築物に関わる外部空間の計画について簡潔に書かれています。第3章では建築計画を学ぶ上で必要なキーワードを厳選し解説しています。この他、コラムとして様々な建築物に適用できる単位空間の基本的事項について触れてあります。

 本書のレイアウトは見開きで左側に文章、右側に図表や写真となっています。わかりやすい内容と文章表現に留意しつつ、建築計画の理解を助けるため、多くの図表・写真を掲載しています。また、巻末には、図版の出典や関連する書籍、索引を載せて、読者が自主的に学ぶことができるように配慮しました。

 本書の内容を適宜取捨選択して授業を行う場合、次のような授業構成が考えられます。半期で15コマある授業においては、第1章:2コマ、第2章:8コマ、第3章:5コマ、通年の場合、半期の倍の時間を割り振ることで半期よりもより細やかに学ぶことができます。また本書のタイトルにもあるとおり、建築計画で学ぶ内容は設計に活かすことが必要です。教科書として使用する場合は、設計の課題とリンクさせ、教授すべき内容について本書を逆引きする方法もあります。各章の割合は、例えば第1章:4コマ、第2章:20コマ(設計の授業課題とリンクさせて選択)、第3章:6コマ(必要と思われるキーワードを取捨選択)などが考えられ、臨機応変に対応することができます。また、各章の内容は視点が異なりますので、それぞれの章だけで授業が成立することも考えました。第1章は建築計画の概要を扱う授業、第2章は設計の授業と連動させた講義科目や建築種別の内容を学ぶ授業、第3章は建築計画やデザインのキーワードを学ぶ授業などで使用することができます。

 本書は建築を初めて学ぶ学生や興味がある方々に読んで欲しいと願っています。また、特に1章と3章の内容はインテリア系の学生にとっても有用な内容であると思います。たくさんの方々に本書を使用していただき、設計演習課題や建築計画で学ぶべき基本的事項について理解を深めていただければ幸いです。

 2010年3月
 藤田 大輔