木造住宅の設計法


まえがき

  現代の木造住宅では,在来軸組構法や枠組壁構法から,構造的にシステム化された新しい軸組構法や,枠組壁構法と軸組構法を折衷した構法など,多種多様な構法がハウスメーカーなどで開発され商品化されてきています.
  このような状況の中にあっても,在来の軸組構法は,未だ,住宅建築の中でも最も大きなシェアを占めており,わが国の気候風土に馴染む,最も優れた構法なのです.
  在来軸組構法の最大の長所は,空間構成の自由度にあります.このことは,多様な空間構成を現出する,細い角材を理にかなうように組み合わせる,架構デザインの技術によってかなえられるのです.
  様々な空間構成に対応できる構法である反面,空間を生み出す架構が構造的に理にかなったものでなければならない難しさがあります.このことから,在来軸組構法の設計では,枠組壁構法やハウスメーカーによってシステム化された軸組構法などに比べて,より架構と空間構成を一体化したデザインが求められるのです.
  実際の設計では,間取りや外観をイメージするときに平面的な思考に陥りやすくなります.住空間のイメージが立体的に浮かばない,勢い,間取りから着手して立体空間にイメージを馳せることが多くなりがちです.このような手法では構造的に弱点が生じやすくなります.
  まず,全体的な空間と架構をイメージすることから入って,間取りや部位の架構,すなわち床や小屋の部材の配置や組み合わせを考える手法が望ましいと言えます.立体的な空間をイメージしながら架構と空間構成を一体に進める手法です.
  この在来軸組構法の設計をどのようにして会得するか.いろいろ考えられますが,本書では,設計の全体像や流れを知って,各論的に各分野・各部について深める方法を念頭に構成しました.
  そこで,まず,設計のプロセスと相互の関連を,おおまかにとらえることができるように,最小限必要な知識を設計の手順にそって項目だて,簡潔に解説しました.
  住宅の設計では,意匠に偏って,構造や設備が十分に計画されないまま,施工業者任せになってしまう傾向がありました.
  最近では,木造住宅の耐震性や住環境が声高に語られるようになりました.このことからも,建物の構造体や装備・機能面の要となる「構造」や「設備」が注視されるようになりました.
  意匠と構造,設備が表裏一体となって住居を構成しますから,空間構成や外観の裏付けとなる構造や住環境を整える設備の分野をトータルにデザインする能力を身につけることが必要になります.とりわけ,日々,高度化する設備では,実施設計は専門の設備設計者に設計を依頼することになりますが,基本設計段階までは,設備設計者の助言を得ながら設計できる知識が求められます.
  本書では,紙面の都合から,設備の実施設計につきましては割愛しますが,基本計画から基本設計までの設計のプロセスを解説しました.
  最後に,本書を刊行するに当たって,一方ならぬお骨折りをいただいた学芸出版社吉田隆編集長はじめ編集を担当していただきました村田譲氏に,厚く御礼申し上げます.

 
平成18年4月
大庭孝雄