今井町 甦る自治都市

町並み保存とまちづくり

書 評
『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2007.9
 町並み保存への道のりは決して平坦なものではない。国や自治体が保存指定を行うことに前向きであっても、問題となるのは住民個人の暮らしの都合がそこに存在する、ということだ。特に、今井町のような戦国時代末期からの自治組織が維持されてきた「自由都市」においては、外部からの拘束に対する拒絶反応があることを抜きにして「保存」を考えることはできない。そのことが「伝建地区」に指定された場合には法的に縛られるであろうといった危惧となり、「町並み保存」と「住民の生活の利便性」の間での葛藤が渦巻くことになる。
 本書では、町並み保存に対する賛否両論の意見が繰り広げられる中、いかにしてそれらの意見の一致を見出していったか、たどり着いた「住民審議会」が何だったのか、今井町の文化的価値となった「重伝建」指定に至るまでの住民活動の長きに渡る展開が研究者や行政とのかかわりを含めて詳細に明らかにされていく。「町並み保存」にかかわった人たちの息遣いが伝わってくる貴重な一冊である。

『都市問題』((財)東京市政調査会) 2007.2
 本書は、橿原市今井町における町並み保存の合意形成の全過程を追ったものである。早くから保存が言われた今井町だが、住民審議会の合意形成を経て重要伝統的建造物群保存地区に指定されたのは1993年。長きを経て合意に至るまでにどのような経緯があったのか。
 江戸時代初期以来の家々がおよそ750戸も立ち並ぶ今井町。1956年の東大調査が保存に向けての大きな端緒となった。いわば外の者に「発見」された形だったが、江戸時代に幕藩体制下でかなりの自治権を保障されるなど自治都市の伝統を誇る今井の人々は、国・行政・学者など外の力に容易に動かされない。町に刻まれた自治の歴史を土台にあくまで自ら主導し、意見交換と対立を重ねながら取り組みを進めていった。関係者へのインタビューからその過程が浮かび上がる。
 町並み保存の取り組みについて、住民自らによる合意形成の過程を丹念に追ったこの記録は、多くの町にとって貴重なテキストとなるのではないか。