世田谷線の車窓から


書 評
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2006.10
 近年、新時代の路面電車(LRT)がまちづくりの観点から注目されている。本書はそのような潮流を反映したもので、東京・世田谷をのんびりと走る全長5kmの東急世田谷線を中心に据えた意欲的な地域づくりの試みを紹介する本である。
 内容は、世田谷線の歴史・沿線ガイド、世界のLRTの現状、専門家の目から見た路面電車の可能性、世田谷線の魅力と時代のあり方を利用者・沿線ファン・識者が語り合う座談会、駅間の車窓をもっと楽しくするためのアイデアを募るコンクールに寄せられた提案作品全110点の紹介……と多岐にわたる。世田谷線の身近さを感じさせてくれるカジュアルな装丁が印象的である。
 本書に一貫して感じるのは地域の人々の世田谷線に対する強い愛情と、沿線をもっと良くしていこうという積極性である。読後は世田谷線に乗りたくなるのはもちろんのこと、ヒューマンスケールの公共交通機関を生かした住民参加のまちづくりの大きな可能性もあわせて感じられること請け合いである。