高齢者・障害者のための住居改善

まえがき


 高齢期を安全で快適に過ごすためには、住宅の質が極めて重要であることは言うまでもない。
 ところが、その住まいが原因で、病院から退院できなかったり、介護者に過度の負担を強いたり、場合によっては、家族の人間関係をひずませている例を、残念ながら多数知っている。

 何とかできないものだろうか。

 私たちは、障害をもっても、人間らしい生活ができるように、住居改善を支援することを目的に、福祉領域、保健・医療領域、建築領域に関わるものが集い、1990年(平成2)ごろから様々な研究・実践活動を続けてきた。
 活動を続けていくうちに、それぞれの分野で飛び交う固有の“専門用語”の意味が、案外他分野の人々に正確に伝わっていないという問題にしばしばぶつかった。同業者同志で普段当たり前のように使っている言葉が、伝わらないのである。これをいちいち他分野の人にわかるように説明するのは,なかなか難しい。しかも、わかりあっているつもりの不十分な理解で住居改善を進めてしまうと、もともとの目的である在宅生活支援が達せられず、そのつけが、当事者に回ってしまいかねない。

 何とかしたい。
 そんなわけで、日常の住居改善に関する実践活動を通じて気づいたことを中心に,それぞれの分野から知っておいて欲しい基本的な事柄について、あるいは、他分野の知っておきたいことを出し合おうということででき上がったのが本書である。

 さて、本書は、大きく3部からなっている。
 はじめには,住居改善についての総論である。本書のタイトルに示すように,住宅改造の技術を直接取扱うのではなく,その目的である高齢者・障害者の在宅生活支援のために,住宅改造を含む住居改善を多分野の連携によって推進することの必要性や意義・効果,実際の進め方などを示している。
 第1部は、福祉、医療・保健、建築、各領域の基礎知識編である。各分野から出し合った用語・概念をもとに、各執筆者の責任で、この程度のことは他分野の人にも知っておいてもらいたい(すべてを理解するまでには至らなくても良いが…)といったスタンスで執筆した。特に保健・医療・福祉領域からの要望もあり、建築分野は少々踏み込んで書いた。また,福祉分野については,介護保険の導入に始まり,在宅福祉施策がドラスティックに転換しつつある現在,どこまで触れるべきかは迷うところであるが、できるだけわかりやすく現状を書くことに心がけた。
 第2部は、事例集である。はじめに,第1部から、考え方や現実の諸問題をくみ取っていただくとともに、実例を参考にしていただきたいという趣旨である。しかし、限られた文面で、個別の具体的な決断を十分説明しきれたとは思っていない。この点は、実際に住居改善に関わっている方であれば、すぐに理解していただけるであろう。

 本書が,高齢者・障害者の在宅生活を支援する多くの分野の方々が連携して住居改善に取り組むことに、少しでもお役に立てればと願っている。
 なお,本書の出版にあたり,トヨタ財団の助成を受けたことをここに報告し,感謝の意を表します。


学芸出版社
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