4年前、作業療法士の尼寺謙仁さんの提案から始まった福祉・医療・建築の連携のための「共通言語化プロジェクト」の成果が、今回、出版の運びとなった。長年の研究会仲間である彼が、リハビリテーション領域の説明をするとき、建築や福祉の領域のものにもよくわかるようにと、ほとんど専門用語を使われることはない。その彼からの提案だったので、普段、私たちと話すときに相当工夫されており、不便だったのだろうと実感できた。
なるほど、本書「2・3 リハビリテーション」(p.56〜75)を読んでみると、「これくらいのことは知っておいてね」という彼からのメッセージが伝わってくる。以前、大学の授業で、「骨学」だけで半期の授業を開講されていたと伺ったことがある。本書では「コツ」に関しては、4分の1ページの記述である。そういう知識のレベルであることを肝に銘じ、専門分野の奥の深さに敬意を表しつつ、せめて門前の看板程度は読める知識を見につけて、連携しようということである。
同様のことは、建築についても言えるし、福祉についても言える。
建築の立場からすると、住居改善支援を進めていく上で、間取りや家具の配置くらいは、どの分野の人でも図面化できるようになって欲しいと切望している。住まいを扱うのに、その空間の形状と大きさ、空間のつながりについて表現できること。この力がつけば、住まいの何が問題であるのかという勘どころは押さえられるはずだ。そして、「間取り図」を介することで、住居改善がスムーズに進むことであろう。
そのために、「2・5 あらかじめ調べてみよう」を読んで、ご自宅の間取りを描くことを実践していただきたい。今まで、どのように図面を読み・描きするのか戸惑っていた方々も、「ハハーン、なるほど」といった調子で、図面表記のコツをつかんでいただけることと思う。実際、筆者は、医療・福祉系大学の授業で、簡単な説明だけで、学生さんたちがそこそこの「間取り図」を仕上げることができることを体験している。特に、新しい職種であるケアマネジャーさん達には、住宅改修のために「間取り図」を活用していただけたらと願っている。
本書を執筆した主要メンバーは、福医建研究会に集い、高齢者・障害者の在宅生活支援に取り組んでいる各分野の実務家である。本書が出来上がるまでには、2年間に重ねた研究会での議論を踏まえている。専門の垣根をこえた共通言語化への熱意を汲み取っていただきたい。
本書が、同じように連携して住居改善に取り組もうとしている多くの分野の方に役立つことを希望する。
最後に、学芸出版社の編集者である前田裕資さん、越智和子さんには、多くのアドバイスと支援をいただいた。まさに、編集における著者との連携を実践できたと感じている。ここに、本書が完成するまでに連携できた多くの方々に感謝の気持ちを捧げます。
馬場昌子