近代建築の更新プロセスと消失原因

田中利幸

 今まで報告がありました状況を踏まえて、残存する近代建築の保存を考えたいと思います。今、残っている近代建築も築後40年以上経っており、更新の時期にさしかかっています。ほっておけばすべて失われかねないという時期に差し掛かっているのです。したがって、この20年間に消失していった近代建築の更新プロセス・消失原因について考え、それを踏まえて保存の方途を考えることが急務であると考えています。

文京区の地価の変遷と建て替え状況
図8 年別建て替え件数
 まず地価の変遷と建て替えです。図8「年別建て替え件数」を見ますと昭和54年に一度ピークをむかえ、昭和57年ごろから建て替えがどんどん進み、昭和62年ぐらいを境にしていったん減少傾向になりますが、平成8年になって建て替え件数が増加しています。

図9 地価変遷グラフ
 これと比較して地価の推移(図9「地価変遷グラフ」)を見てみます。この図で系列1は住居系の用途地域になっている関口2丁目です。系列2は業務・商業系の用途地域になっている湯島3丁目です。それぞれグラフのように昭和62年や平成元年あたりをピークに地価が変動しています。これはちょうどバブル景気の絶頂期です。

 年別建て替え件数と比較してみますと、地価が急騰した昭和62年ごろには建て替え件数も増加しています。これは地価の高騰によって所有地の一部を売却すれば建て替えの費用が捻出しやすかったことや、所有者の相続税対策などで建て替えが進んだものと考えられます。

防火地域と木造近代建築残存
 ・消失状況について  次に防火地域指定と木造近代建築の残存消失状況について見てみます。文京区ではすべての地域に防火地域か準防火地域のいずれかの指定がかかっています。そのなかで木造近代建築がどのように消失していったかを考察してみたいと思います。
図10 防火地域内の木造近代建築の残存・消失状況
 図10「防火地域内の木造近代建築の残存・消失状況」、図11「防火地域外の木造近代建築の残存・消失状況」をご覧ください。これを見ますと防火地域内では木造近代建築の消失は準防火地域に比べかなり激しいことがわかります。

図11 防火地域外の木造近代建築の残存・消失状況
 ただし、サンプル数が非常に少ないため防火地域指定によって木造近代建築が消失したという結論は出せません。また、防火地域指定が商業系用途地域を中心とした開発圧力の高い地区にかかっている場合が多いことも別の要因として考えられます。しかし、防火地域指定によって不燃化が促進され更新が進んだということも副次的な要因として挙げられるのではないかと思います。



建て替え済の近代建築に関する個別スタディ

 建て替えがもう済んでしまった近代建築について、所有者に個別にアンケートをとってみました。先の地価の変遷と建て替え状況、防火地域指定と木造近代建築の消失状況についての分析をふまえて、実際どのような原因・プロセスで近代建築が更新されていったのかをヒアリングしてみたものです。
表1 個別スタディのまとめ
 その結果は8件について詳しくお伺いすることができました(表1「個別スタディのまとめ」)。
 それらを見ますと建物の老朽化が共通の要因としてあげられますが、個人所有の住宅などでは家族構成が変化したこと、修理費が経済的に負担であることなどから建て替えを選んだという意見も得られました。企業などの業務系の施設の場合は、配管や配線などの設備上の問題で建て替えをしたという意見もありました。
 アンケート結果からは、先ほどのような地価の問題や防火地域指定については建て替えと明確な関係が見られませんでした。この結果をみる限り、地価や防火地域指定のような客観的な条件は、建て替えに関する間接的な要因でしかないと考えられます。原因はそれぞれの建物によって多様であり、個々の内部事情に起因すると言うべきでしょう。
 このような既に消失してしまった近代建築についての調査は、建物が売却されていたり、所有者が転居している場合が多く、事例を探すこと自体が困難です。しかし都市部において歴史的建造物をいかしたまちづくりを考える上では、その更新プロセスを検証していくことは意義深いことであり、今後より多くの事例を収集し検討を進めていくことが課題であると考えています。
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