歴史を活かしたまちづくり


1 東京大学キャンパス構想

西村幸夫



東大キャンパスの登録文化財

 こんばんは、西村です。先ほど文京区の近代建築の話がございました。私は今、東大のキャンパスを将来どうするかを検討するキャンパス計画室のメンバーでもありますので、本題に入る前に、文京区で近代建築が一番多い東大について、どういう考え方でどういうふうに残そうとしているのか、ご紹介したいと思います。
図1 東京大学のキャンパス
 先ほども紹介がありましたが、東大キャンパス内には7件の登録文化財があります。登録文化財は都道府県ごとに番号がつくのですが、東京都の第1号が安田講堂です。これは新聞等でも話題になりましたのでご承知の方も多いかもしれません。文化庁は第1号を何にするかを気にしていました。各県の第1号はそれなりのものにしよう、話題性があるものにしようということで安田講堂を選んだのだと思います。ただ逆効果もありました。あれぐらい立派じゃないと登録文化財にならないのかと誤解された面があったようです。
 また正門も横にある守衛所とともに登録文化財になっております。また正門から安田講堂に向かうと両側に2棟ずつ建物があるのですが、これも登録文化財です。その正門から安田講堂を結ぶ道のそのちょうど真ん中に交差点があります。その交差点で左右を見ますと、それぞれのつきあたりに建物があります。その十字形が東大のキャンパスのメインのコンセプトになっています。
 その十字形の右手、正門から入って進んでいって安田講堂を正面にみての右手のつきあたりが図書館です。左手のつきあたりが今は建築と土木が入っている工学部1号館の建物です。この工学部1号館が登録文化財になっております。図書館は、年々図書が増え続けており今後図書館をどうするのかが流動的なので、まだ登録文化財になっておりません。
写真1 法文2号館写真2 列品館
 東大の将来的な構想の中では、どの建物を残していくのか、残す場合も全体で残していくのか、それともファサードだけ残していくのかが分類されております。今言いました軸に関しては、正門、安田講堂、それから法文1号館と2号館は完全に守っていこうという考えです。また十字形に面した建物は少なくとも外観は守っていこうという考え方をとっております。
 その他にもいくつか重要な建物があります。ご存知ないかもしれませんが、裏の方に御殿下グランドがあるわけですが、地下に体育館をつくって人工地盤としています。それを作ったときにはグランド入口の構造物を保存しております。それとマロニエの並木の東側に理学部の化学の建物があります。これは東大の中でも教室としては一番古いもので、保存する建物となっています。


残すに値しない昭和30年代の建物

 保存しようと考えられていない建物は、これから少しずつ再開発をしていくことになっています。皮肉なことですが昭和30年代に建てられた建物は、この先再開発によって無くなってゆきます。それより古い建物、昭和の初めぐらいに建てられた建物は残るのですが、高度成長期の安普請でできた建物はなくなっていくのです。こういう建物は、質も悪く、アスベストが使ってあり、それを取るのに手間もかかるからです。
 例えば工学部には5号館や8号館(かつて都市工学科もここでした)など昭和30年代〜40年代に建てられた建物がありますが、これらも将来無くなる予定です。
 ただ歴史的な建物が全部残せるかというとなかなか難しいのが現実です。例えば赤門を入ってつきあたりの建物は医学部の本館ですが、我々としては残したいと思っているのですが、もう少し大きな建物を建てたいという意向が強く、どの辺りのところに接点があるのか、ファサードだけになるのか、もう少し中まで残せるのか、難しいところです。


東大にもある再開発と保存の葛藤

写真3 安田講堂
 また最近不評なのが、安田講堂の後ろにかなり高い建物が建ち、安田講堂に覆い被さるようになっていることです。あれは理学部の建物です(写真3参照)。理学部はキャンパスの中に何ヵ所かにわかれて建物をもっていますが、理学部の希望は一ヵ所に集まりたいということでした。集まると安田講堂の裏になるんですね。そうするとその土地の面積が少ないものですから、高い建物ができてしまいました。
 将来は、あの右側に同じぐらいの高さの建物がもう一本できてしまいます。そうすると安田講堂は完全に後ろから囲まれてしまいます。それに対してなんとかしたいと思っているのですが、中には全然理解のない人がいます。一本より両側にあったほうがいいじゃないかといったことを言う人が、私たちの大学の中にもいるのです。今建っている建物も景観上まずいということで、なるべく目立たないようにガラスで空が反射するようにするとか、途中でデザインは多少変わっているわけですが、あそこに大きな存在感があるのは否めないと思います。
 また、今年から来年にかけて再開発される建物に、安田講堂のすぐ左側にある工学部2号館があります。この建物は一部震災前からの部分が残っている古い建物なのですが、全部壊して新しい建物にする予定だったのです。幸い、中を改装するとなかなか良いではないかということになり計画がかわりました。安田講堂の広場に面した半分を残し、中庭に屋根をかけ大きな広場をつくり、安田講堂から離れたところに高い建物を新しくつくるという計画になりました。
 それともう一つ改装が完了した建物としては、登録文化財になっている工学部1号館があります。これは中庭を二つもった、漢字の「日」の字型の建物ですが、建築学科の場合、中庭に大きな屋根をかけ、そこを製図室にしております。ここは広々としていて、かつ中庭だったわけですから、2、3階の廊下から全部見えるというユニークな構造になっています。
 また裏に少し増築しているのですが、増築にあたってはもともと建物の外壁だったものを増築された空間の内壁として扱って、中側からもともとの壁体が見えるように改修されています。これは東京駅の貴賓室の赤レンガが、中央通路が改修されたときに外から見えるようにしたのと同じ考え方です。ちょっとした話題になっています。
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