「 売れてますか。」 と藤川が、 とてもセンスがあるとは思えない質問をすると、
「 それはうちの店では意味のない質問です。 猿岩石もSMAPもコンピュータもまったく関係ない書店ですから。」
「じゃ、 売れてないんですか。」 と意地悪な質問をすると、
「売れるわけがないじゃないですか。 それは藤川さんがよくご存じのはずで、 ホホホ。」 と切り返された。
彼女にたしなめられながら、 藤川が大声で立ち話をしている30分ほどの間に、 彼女は、藤川との話を中断してレジに立ち、 5人ほどのお客さんに、 彼女が趣味で揃えた本を売った。
長話を打ち切り、 藤川が帰ろうとすると、
「良い本があったらまた紹介しに来てください。」 と彼女は言った。
「うちは良い本出していません。 おたくでは売れない本ばかりで申し訳ありません。」 と藤川が言うと、
「ホホホ、 そんなことありませんわよ。 自分のところの商品をそんな風に言ってはダメです。」 と彼女にまた、 たしなめられた。
儲けろ、 儲けろと血走った目ばかりを見せつけられる近ごろにおいて、 彼女の店は藤川にとってのオアシスなのである。
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